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米ユタ州の塩の大地に黒い布、地質の広大さを可視化する一時的アート

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アメリカ・ユタ州の塩の平原ボンネビル・ソルトフラッツに、アーティストのグレゴリー・オレホフ氏が15メートル四方の黒い布の正方形を設置した。作品名は「Shadow of Light(光の影)」。可視光の99.9%を吸収する日本製の特殊な布を使い、設置から撮影までわずか数時間だけ存在した一時的な作品で、どこまでも白い塩の大地の広大さを、一点の黒によって浮かび上がらせた。デザイン誌Dezeenが伝えた。

何が起きたのか

ボンネビル・ソルトフラッツは、太古の湖が蒸発してできた塩の平原で、連邦政府が管理する土地だ。オレホフ氏はDezeenに対し「初めてボンネビルに来たとき、果てしなく続くように見える白い表面に心を打たれた」と語り、「その体験がShadow of Lightの衝動になった。この作品はこの風景のために構想したものだ。私にとって、ほかの場所では同じようには成立しえない」と述べている。

白と黒のコントラストを最大にするため、オレホフ氏は可視光の99.9%を捉える特殊な布を日本から取り寄せた。主に、光の反射を抑える必要がある撮影機器などに使われている素材だという。布は50フィート(約15メートル)四方の正方形に整えられ、地面にアンカーを打ち込む代わりに、裏面に縫い付けたポケットにステンレスのケーブルを通して重しとし、風で飛ばないように固定した。

設置と撮影は数時間で完了したが、その瞬間を迎えるまでに、チームは5日間、条件が整うのを待ったという。木が一本もない平坦な土地では、風速が最大の懸案だった。オレホフ氏は「プロジェクトを構想し、細部まで準備することはできる。だが、起きることを強制はできない」と語る。「風、光、地表、空は私の制御の及ばないところにある。自然そのものが作品の出現を許してくれる瞬間を、ただ待つしかないこともある」。完成した作品は、本人の言葉を借りれば「風景の中にほんの束の間だけ存在した」はかない設置作品で、写真と映像の記録だけが残された。

背景

自然の風景そのものを舞台や素材にする美術はランドアート(land art)と呼ばれ、1960年代以降、砂漠や荒野など広大な環境で発展してきた。Dezeenは今回の作品を、米作家ジェームズ・タレルが天井の開口で空を切り取る「スカイスペース」の反転版にたとえている。空ではなく大地に置かれた黒い正方形が、特に上空から見たとき、風景そのものを一枚の絵として意識させるという見立てだ。

オレホフ氏自身は「それこそが私をランドアートに引きつけるものだ」とし、「風景を物理的に作り変えたり、作品に従わせたりすることには興味がない。一つの人間の身ぶりを持ち込み、風景自体は変えないまま、周囲の空間全体の見え方がどう変わるかを確かめることに興味がある」と語っている。さらに「自分よりはるかに大きな空間に束の間の印を刻むことで、一瞬、この広大な世界の中にいる自分自身の存在に気づく」「私にとって自然は背景でも素材でもなく、作品の共作者だ」と、個人的な動機も明かした。

ボンネビル・ソルトフラッツは平坦で見通しが利くことから、自動車の速度記録挑戦の舞台として長く使われてきた場所でもあり、写真や映像の撮影地としても人気が高い。

日本にとっての意味

この作品の核心である「白の中の黒」を支えたのは、日本製の素材だ。Dezeenは製品名を明らかにしていないが、可視光の99.9%を吸収し撮影機器の反射防止に使われるという説明は、日本のメーカーが得意としてきた超黒素材の分野と重なる。国内では「世界一黒い塗料」として話題になった「黒色無双」の開発元が、光吸収率99.9%をうたう撮影用の布「太黒門」を販売するなど、光をほぼ完全にのみ込む素材は日本のものづくりの隠れた強みになっている。塩の平原に置かれた一枚の黒が海外の美術メディアで注目を集める裏で、その黒を作ったのは日本の技術だった。

風景の中に作品を置き、土地の広さや特性を見せるという手法自体は、日本でも定着している。新潟の越後妻有で2000年から続く「大地の芸術祭」や瀬戸内国際芸術祭は、里山や島の風景そのものを美術館に見立てる試みで、国内外から観客を集めてきた。ただ、これらの芸術祭では作品が恒久設置されることも多いのに対し、今回のShadow of Lightは数時間で撤去され、写真だけが残るという対極のやり方をとる。風景に何も残さず、それでも場所の力を伝えるという選択肢があることは、自然環境への負荷と観光活用の両立に悩む日本各地の芸術祭やアートイベントにとって、一つの参照例になる。