兵馬俑博物館などで停電相次ぐ、中国政府が博物館の緊急対応強化を指示
中国・陝西省西安市の兵馬俑博物館で現地時間の8月4日午後1時ごろ(日本時間の同日午後2時ごろ)、突然の停電と空調停止が起きた。同様のトラブルは北京の魯迅博物館や山西省の大同博物館でも現地時間の8月7日、8日に相次ぎ、浙江省博物館では現地時間の8月6日に混雑と入場ゲートの不具合で来館者の入場が遅れる事態も起きた。こうした夏の一連のトラブルを受け、中国の文化財行政を所管する国家文物局(National Cultural Heritage Administration)は全国の公立博物館に対し、非常時の対応体制を強化するよう通知を出した。
兵馬俑博物館の停電は、3つの発掘坑と展示ホール全体に及び、数時間続いた。停電の情報は中国のSNS「Rednote(小紅書)」で先に広まり、現地メディアが後を追った。来館者が懐中電灯を頼りに展示を見る動画や写真も出回った。浙江省博物館は公式のWeChatアカウントで、混雑とゲートの不具合により入場が遅れた来館者に謝罪した。各館の説明によると、いずれの停電もシステムの過負荷と設備の老朽化が原因で、夏の厳しい暑さがそれに拍車をかけたという。
通知は、博物館に対しカメラなどを使って来館者数をリアルタイムに把握する仕組みを導入し、予約システムを改善して来館者数の急激な増加や入場の混乱を防ぐよう求めている。あわせて、来館者数が一定の水準に達した時点で自治体側にも情報が伝わるよう、地方政府との情報共有の仕組みを整えることも促した。さらに、非常用電源、中央空調、防火設備、収蔵庫といった主要な設備について、包括的な点検・整備を実施するよう義務づけている。
背景
中国では文化観光が家族向けの定番の余暇活動として定着し、博物館の来館者数は全国的に増加が続いている。兵馬俑博物館は秦の始皇帝陵の一部としてユネスコの世界遺産に登録されており、国家文物局の報告によると2025年に中国国内で来館者数が2番目に多く、1100万人近くが訪れた。こうした人気の高まりが、老朽化した設備や猛暑と重なったことが、今回相次いだトラブルの背景にあるとみられる。文化財の保存の観点からも懸念が出ている。中国美術学院で文化財修復を教えるジョーイ・カオ氏は、「突然の停電は、厳密な温度・湿度管理を必要とする文化財に悪影響を及ぼしうる」と述べたうえで、影響の程度は停電前後の環境変化の大きさに左右されると説明した。
日本にとっての意味
兵馬俑は日本でも馴染みが深い。日中国交正常化50周年を記念した「兵馬俑と古代中国」展は2022年3月から2023年2月にかけて京都・静岡・名古屋・東京の4会場を巡回し、東京・上野の森美術館では日本初公開の将軍俑を含む36体の俑が公開された。現地への渡航も再び身近になっている。中国は2024年11月に日本人の短期滞在ビザ免除を再開し、2025年11月には30日以内の滞在を対象とする免除措置を2026年末まで延長すると発表した。西安の兵馬俑博物館を旅程に入れる日本人旅行者にとって、今回のような停電や入場の混乱は見学の可否に直結する情報だが、こうした情報は中国のSNSと現地メディアが先行して伝えており、日本で報じられる機会は少ない。
猛暑下の電力・空調と収蔵品の保全という課題も、日本の博物館にとって人ごとではない。国立科学博物館は2023年、コロナ禍による入館料収入の減少と光熱費の高騰で標本・資料の保管が資金難に陥り、クラウドファンディングで約5万7000人から約9億2000万円(国内クラウドファンディング史上最高額)を集めた。カオ氏が指摘する「停電が温度・湿度管理を必要とする文化財に及ぼす影響」は、収蔵環境の維持費に苦しむ日本の館にもそのまま当てはまる構図で、非常用電源や空調の包括的な点検を義務づけた今回の中国の通知は、日本の博物館行政にとっても一つの参照例になる。