米保健当局、次のパンデミックに備え3年で535億ドルを要求
米保健福祉省傘下の機関が、次のパンデミックや化学・生物・放射性物質・核による脅威に備えるための予算として、2027〜2029会計年度の3年間で535億ドルを議会に求めた。実際に配分されるかどうかは議会の判断次第で、現行水準のまま横ばいなら200億ドルにとどまる見通しだ。差額の335億ドルをどう埋めるかが、今後の焦点になるとみられる。
何が起きたのか
米国の緊急事態への備えを担当する保健福祉省(HHS)傘下の機関が、現地時間の7月15日に複数年にわたる予算要求を公表した。中心となるのは、医療品の研究開発と危機対応を統括するASPR(Administration for Strategic Preparedness and Response、戦略的準備対応局)で、この要求は「専門的な判断に基づく」ものだとしている。要求額は2027〜2029会計年度(米国の会計年度は10月始まりで、日本の年度とはずれる)の3年間で535億ドル。現行水準のまま横ばいで推移した場合は200億ドルにとどまり、差は335億ドルにのぼる。
内訳を見ると、ワクチンや治療薬、検査キットの開発・調達を担うBARDA(バーダ、Biomedical Advanced Research and Development Authority)に332億ドルが割り当てられ、要求額の大半を占める。年ごとの内訳は2027年が137億ドル、2028年が85億ドル、2029年が110億ドルで、横ばいなら年18億ドル程度にとどまっていたはずの予算が大きく積み増される計算だ。非常時に備えて薬やワクチンを備蓄する「戦略的国家備蓄」の予算も、今年の7億5000万ドルから2027・2028年は21億ドル、2029年は23億ドルに増える。
CDC(疾病対策センター)の緊急事態への備えの予算も、横ばいの場合に比べて388%多い水準を求めている。一方でNIH(国立衛生研究所)は2.8%の増額にとどまり、FDA(食品医薬品局)は横ばいのままだ。ASPR幹部でトップを暫定的に務めるジョン・ノックス氏は、「この投資により、命を救う医療品を最も必要とされる時に開発・製造・供給する能力が強化される」と述べている。
背景
今回の予算要求の背景には、近年の緊急事態対応予算の削減に対する批判がある。げっ歯類が媒介するとされるハンタウイルスの流行が見られるほか、アフリカではエボラ出血熱の流行が続いているとされる。こうした状況下で備えの予算が縮小されてきたことへの懸念が指摘されてきた。
もっとも、この予算要求には具体的な行動計画が伴っていないとの指摘もある。外交問題評議会(Council on Foreign Relations)で医療品の製造・調達・流通を専門とするプラシャント・ヤダブ氏は、ASPR、CDC、NIH、FDAといった複数の機関に責任が分散し、連携が不十分なため、優先順位を明確にしにくいと指摘する。特に議会が要求額を満額で認めなかった場合には、厳しい選択を迫られることになるとの見方を示した。
日本にとっての意味
日本にも、ワクチンや治療薬の研究開発を支援し、感染症の危機に対応する体制がある。予算の規模を単純に比較することはできないが、米国が3年間で数百億ドル規模の要求を議会に示したという事実は、次のパンデミックへの備えにどれだけの投資が必要とされているかを考える手がかりになる。
とりわけ注目したいのは、BARDAへの重点配分がワクチンなどの国内製造能力の維持・強化を目的としている点だ。今回の予算要求でも、高病原性鳥インフルエンザを例に、ASPRがワクチンの国内製造能力を維持する役割を担うと説明されている。ワクチンや治療薬を自国で製造できるかどうかは、感染症が世界的に流行した際にどの国が優先的に供給を受けられるかを左右する要因になり得る。海外からの供給に頼る度合いが大きい国ほど、危機の際に不利な立場に置かれるおそれがあるという構造は、日本の医薬品・ワクチン産業の国内製造基盤をどう保つかという課題に直結する。