感染症・健康

米国の長期COVID診断、黒人患者に見落とし多いとの分析

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米国でCOVID-19感染後に長く続く症状、いわゆる「長期COVID(long COVID)」について、黒人患者は白人患者と症状の重さが変わらないのに、診断される割合が低いとする分析結果が発表された。医療記録をもとにした大規模調査で、診断の入り口に人種による差があることが示された形だ。

何が起きたのか

スタンフォード大学とカリフォルニア大学バークレー校の研究チームは、2022年1月1日から2023年3月31日までに急性期のCOVID-19と診断された米国の患者、約240万人分の電子健康記録を分析した。人種・民族を6つのカテゴリーに分け、感染後1年以内に現れた222種類の症状を調べている。

分析結果は2026年7月、学術誌ヘルスアフェアーズ(Health Affairs)に掲載された。それによると、少なくとも2カ月に1回医療機関を受診し、長期COVIDの症状が1つ以上あった患者のうち、黒人患者が長期COVIDと診断される割合は白人患者より6%低かった(相対リスク0.938、95%信頼区間0.887〜0.992)。ヒスパニック・ラティーノ系、アジア系・太平洋諸島系、アメリカ先住民・アラスカ先住民の患者では、白人患者との間に統計的に有意な差は見られなかったという。

また、どの症状が診断と結びつきやすいかも調べたところ、ほとんどの人種・民族グループで、咳や息切れといった呼吸器症状と診断との関連が最も強かった(ただし相関自体は弱い)。アジア系・太平洋諸島系の患者では、味覚・嗅覚の喪失が最も強く診断と結びついていた。

研究チームはさらに、長期COVID診断そのものが全体として少なすぎる問題も指摘している。過去の研究では、急性期COVID感染者の1割超がその後長期COVIDを発症するとされる一方、電子健康記録上で実際に長期COVIDと診断されている患者は1%未満にとどまるという。研究チームは論文で「真の発症率と実際に診断された割合との間のこの乖離は、診断上の偏りへの懸念を提起する」と述べている。

背景

長期COVIDは、COVID-19感染後に倦怠感、息切れ、味覚・嗅覚障害、思考力の低下(いわゆる「ブレインフォグ」)などの症状が数カ月以上続く状態を指す。原因やメカニズムが完全には解明されておらず、確立した客観的な検査手法がないため、医師の問診や臨床的判断に頼らざるを得ない部分が大きいとされる。

米国の医療現場では、こうした「客観的な検査がなく、医師の主観的判断に委ねられる」領域で人種間の格差が生じやすいという指摘が以前からある。研究チームも今回、より客観的な診断基準の整備が格差是正に役立つとしつつ、「客観的な指標を導入しても、患者を検査対象とするかどうかの判断、診断の精度、結果の解釈といった段階に偏りが残る可能性があり、診断の不公平を完全になくすことは難しいだろう」と述べている。米国では医療従事者の暗黙の偏見(implicit bias)が診療の質に影響しているとする過去の研究もあり、今回の結果はそうした知見と整合的だという。研究チームは、医療従事者への偏見教育や、十分な医療を受けられていない層への働きかけ、診断ツールの改善が必要だと結論づけている。

日本にとっての意味

日本では医療は原則として国民皆保険のもとで提供され、米国のように人種構成が多様な患者層を抱える医療制度ではない。そのため今回のような黒人患者と白人患者の診断率の差という構図が、そのまま日本に当てはまるわけではない。

ただし、この研究が示す本質的な問題、つまり客観的な検査手法がない疾患では診断が医師の主観や患者との対話の質に左右されやすいという点は、日本の後遺症診療にも通じる部分がある。日本でも「コロナ後遺症」の診断は基準が定まっておらず、症状を訴えても医療機関によって対応にばらつきがあるとの指摘がある。米国の今回の分析は、症状の重さが同じでも診断される確率に差が出ることがあり得ると具体的な数字で示した点で、日本の後遺症診療体制を検証する際の比較材料になり得る。誰が、どのような基準で長期化する症状を「病気」として認めるのかという問いは、人種構成の違いを超えて共通の課題だといえる。