パリ協定の気候計画、45カ国が期限18カ月後も未提出
パリ協定に基づき各国が提出を義務づけられている新しい気候計画「NDC(nationally determined contribution、国が決定する貢献)」について、2026年7月時点で45カ国が未提出のままであることが分かった。提出期限は2025年2月だったため、すでに18カ月近く遅れている計算になる。エジプト、ベトナム、アルゼンチン、フィリピンなど、世界の温室効果ガス排出量上位40カ国に入る国も含まれている。
何が起きたのか
パリ協定の履行と遵守を監視する委員会「PAICC(Paris Agreement Implementation and Compliance Committee)」が、現地の2026年7月7日から10日にかけて開いた会合の報告書を公表した。それによると、パリ協定に参加する国のおよそ4分の1にあたる45カ国が、まだNDCを国連に提出していない。このうちオマーンは会合後に提出を済ませた。
未提出国のうち12カ国は、委員会が理由を問い合わせても応答しなかったという。これらの国は、現地の9月1日から4日に開かれる次回会合に招かれ、提出が遅れている事情や制約を委員会が聞き取る予定だ。未提出国を名指しで公表するかどうかについては委員会内で意見が割れており、前回会合に続いて9月にも議論される見通しだ。
NDCは、各国が5年ごとに更新を義務づけられている気候計画で、温室効果ガス排出削減の数値目標と、気候変動への適応策を盛り込む。今回の第3ラウンドは2035年に向けた目標を定めるもので、2025年が提出期限だった。未提出国の多くはアフリカやカリブ海地域の小国だが、スーダンの当局者が委員会に送った書簡では、内戦によってNDCの準備作業自体が中断していると説明しているという。
なお現在、米国とイランはパリ協定に参加していない。米国はバイデン政権下で2035年目標のNDCを一度提出していたが、トランプ大統領が協定離脱を決めた。委員会は、離脱した国の計画が国連の登録簿でなお「有効」と表示され続けていた点に懸念を示しており、米国の提出分はその後、登録簿上でアーカイブ(保管)扱いになった。前回3月の会合以降、インド、アルジェリア、カメルーン、ガイアナなど10カ国が新たにNDCを提出したという。
背景
パリ協定は2015年に採択された国際的な気候変動対策の枠組みで、産業革命前からの気温上昇を2度未満、できれば1.5度に抑えることを目標に掲げる。この目標を達成する仕組みとして各国に義務づけられているのがNDCで、5年ごとに前回より野心的な内容へ更新することが求められている。
ただしパリ協定には、目標を守らなかった国を罰する権限を持つ機関が存在しない。今回未提出国を調査しているPAICCも、あくまで事情を聞き取り、必要であれば支援につなげる役割にとどまる。専門家によれば、罰則を設けなかったのは、強制力のある仕組みを協定に組み込もうとすれば、一部の国が協定への参加自体をためらった可能性があるためだという。NDCの作成には、自国の排出量を正確に把握し、産業界や国民との調整を経て削減策をまとめる作業が必要で、行政基盤が弱い国や内戦下にある国にとっては大きな負担になっているとみられる。
日本にとっての意味
日本は今回名前が挙がった未提出国には含まれておらず、対照的な立場にある。ただし、これは日本にとって遠い他国の手続き問題ではない。未提出国に含まれるベトナムとフィリピンは、いずれも日本の二国間クレジット制度「JCM(Joint Crediting Mechanism、日本の技術や資金による他国での排出削減分を日本の削減実績として算入する仕組み)」のパートナー国だ。
JCMのような協力の枠組みは、相手国が自国の削減目標や政策の方向性を示すNDCを土台にして具体化していく面があるとされる。相手国のNDCが未提出のまま資金や技術の協力だけが先行する状態は、日本側が期待する削減効果の裏付けが薄いまま進むことになりかねないという見方もできる。パリ協定に罰則がない以上、こうした「約束が守られているかどうか」を外部から追い続けることには限界があるが、日本が拠出する資金や技術協力がどこまで実効性を持つかを考えるうえで、相手国のNDC提出状況は見逃せない指標だと言える。