感染症・健康

米上院委、ファウチ氏を議会侮辱で告発 証言拒否めぐり

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米上院国土安全保障委員会は現地時間の8月6日、新型コロナウイルス対応をめぐり、元政府高官アンソニー・ファウチ氏を議会侮辱(議会の召喚に応じない行為)で告発する決議を可決した。採決は共和党議員が主導し、賛否は党派ごとに割れた。現地時間7月29日の公聴会でファウチ氏が証言を拒み続けたことが理由とされる。

何が起きたのか

決議は、ファウチ氏が7月29日の上院公聴会で召喚状(subpoena、証言や資料提出を強制する命令)に基づく質問に答えず、合衆国憲法修正第5条(自己に不利な証言を強いられない権利)を100回以上にわたって行使したことを問題視するものだ。ファウチ氏は新型コロナウイルス対策の司令塔を務めた米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)の前所長で、これまでもウイルスの起源をめぐって議会と対立してきたとされる。

共和党のランド・ポール上院議員らは、ファウチ氏が中国での研究に資金を提供し、その研究から新型コロナウイルスが流出したとされることに加え、議会や国民に対しウイルスの起源やリスクについて繰り返し虚偽の説明をしてきたと主張している。

今回の決議で問われるのは、召喚に応じなかったこと自体が連邦法上の軽罪に当たるかどうかで、有罪となれば最長12か月の拘禁刑が科される可能性がある。今後は司法省が、ファウチ氏の証言拒否が正当な憲法上の権利行使だったのかを判断することになる。ファウチ氏の弁護士デービッド・シャートラー氏は声明で「ファウチ博士は何の罪も犯していない」と反論した。

背景

合衆国憲法修正第5条は、自分に不利益な証言を強制されない権利を保障しており、刑事訴追の可能性がある場面では証人が答弁を拒否できる仕組みとして広く使われる。一方で議会側は、召喚状に基づく証言要求に一切応じない対応は議会の調査権を実質的に無力化するものだとして、議会侮辱の手続きで対抗することがある。両者は制度上、必ずしも矛盾しないため、司法省がどちらの理屈を採るかが今回の行方を左右するとみられる。

新型コロナウイルスの起源をめぐっては、自然発生説と研究施設からの流出説が米国内で長く対立してきたとされる。ファウチ氏はパンデミック期に米国の感染症対策で最も影響力を持った専門家の一人であり、その発言や政策判断が政治的な争点になりやすい立場にあった。今回の告発は、その対立が刑事手続きの領域にまで持ち込まれた事例といえる。

日本にとっての意味

日本の国会にも証人喚問や参考人招致の制度はあるが、応じない場合の法的な追及の重さや手続きは米国とは異なる。今回のように科学の専門家が刑事責任を問われかねない形で追及される事態は、日本の制度からは距離がある光景だ。

ただし実務的な含みは小さくない。日本の新型コロナウイルス対応は、米国の研究成果やワクチン・治療薬の承認判断、疫学データを相当程度参照してきたと指摘されており、米国の感染症対策の指揮系統がどれだけ安定して機能するかは、間接的に日本の政策判断にも影響しうる。また、証言が後の政治的・刑事的な追及の材料にされかねないという前例は、専門家が有事に率直な助言をためらう萎縮効果を生むとの懸念もある。次のパンデミックが起きた際に、米国の専門家や当局が迅速かつ率直に情報を発信できるかどうかは、日本の初動対応にも関わってくる論点である。