感染症・健康

ボリビアの先住民2集団、新型コロナ死亡率が世界最低だった謎

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ボリビアのアマゾン地域に暮らす先住民、チマネとモセテンの人々は、新型コロナウイルスの感染が集団の6〜7割に広がったにもかかわらず、死亡率は世界で報告された中でも際立って低かった。フランスのコルシカ大学などの研究チームが学術誌Social Science & Medicineに発表した研究によると、当初は重い被害が予想されていただけに、この結果は研究者たちを驚かせている。

何が起きたのか

研究チームは2020年7月と12月、2021年3月から5月にかけて、17歳以上のチマネとモセテンの住民から聞き取りと採血を行った。調査対象685人のチマネのうち71.4%、562人のモセテンのうち63%が感染し、世界各地で報告されたのと同様の症状を訴えた。

しかし死亡率はチマネで0.009%、モセテンで0.095%にとどまり、調査期間中に亡くなったのは3人、いずれも65歳を超えた男性だった。チマネの死亡率は、世界の他地域の実績から予想される水準の23分の1だったという。論文の責任著者でカリフォルニア大学サンタバーバラ校の人類学者マイケル・グルベン氏は、この致死率の低さについて「頭を悩ませる結果だった」と振り返っている。

研究チームは感染拡大に先立ち、現地の指導者や保健当局と協力して、外部との接触を絶つ自主的な集団隔離などの対策を進めていた。ただしその後もウイルスは集団の大半に広がっており、感染そのものを防げたわけではない。

研究者らが特に懸念していたのは、文化や伝統の継承者として重要な役割を担う高齢者への影響だったが、実際には症状の重さは年齢が上がってもわずかにしか増えなかった。血液検査では、新型コロナに対する抗体の量が、同時期のフランスの集団の2倍以上に達していたことも分かった。高齢者向けに酸素を送る装置を準備していたが、結局は使わずに済んだという。

背景

先住民の集団は歴史的に、外部から持ち込まれた感染症で大きな被害を受けてきた例が多い。免疫がその病原体に不慣れなこと、閉じたコミュニティ内で感染が広がりやすいこと、医療や医薬品、ワクチンへのアクセスの乏しさなどが要因として指摘されてきた。実際、米国南西部の先住民ディネのように、糖尿病や高血圧といった慢性疾患を抱える人が多い集団では、新型コロナの死亡率が高かった例が報告されている。

チマネとモセテンは自分たちで作物を育て、狩猟や採集も行いながら暮らす人々で、高齢になっても身体機能が保たれ、肥満や喫煙、薬物使用も少ない。心血管疾患や炎症、糖尿病といった、新型コロナの重症化につながるとされる慢性疾患も際立って少ないという。

一方で、寄生虫症や結核をはじめとする呼吸器感染症など、感染症による病気や死亡は多い集団でもある。研究チームは、若さや慢性疾患の少なさだけではこの低い死亡率を説明できないとしている。血液中の抗体の量やウイルスを抑える力を調べても、死亡率の低さそのものは十分に説明できなかったが、感染初期の免疫の応答が素早く働き、ウイルスが肺に達する前の段階で抑え込まれた可能性を示しているという。

研究者らは、衛生環境が十分でなく寄生虫や細菌感染にさらされ続ける暮らしが、免疫を常に働きやすい状態に保っているのではないかと考えている。清潔な環境で暮らす工業化社会の人々は、多様な病原体にさらされる機会が乏しく、免疫が病原体以外のものにまで過敏に反応しやすくなっているのではないか、という見方もある。グルベン氏は、単一の決定的な要因を探すべきではないと述べており、複数の要因が重なった結果だとみている。

日本にとっての意味

日本では新型コロナの死者が高齢者に偏って集中し、糖尿病や高血圧、肥満といった持病が重症化のリスクとして重視されてきた。今回の研究は、そうした要因の少なさだけでは説明のつかない死亡率の低さを示しており、重症化の仕組みを考えるうえで一つの手がかりになる。

花粉症やアトピーのような免疫の過敏な反応と、清潔になりすぎた生活環境との関係は、これまでも折に触れて語られてきた論点であり、今回の研究はそうした議論と重なる部分がある。

ただし読み違えてはならないのは、チマネやモセテンが感染症に強い集団だというわけではない点だ。彼らは寄生虫症や結核をはじめとする呼吸器感染症で命を落とすことが多い集団でもある。衛生環境を整えず病原体にさらされ続けることが、無条件に望ましいわけではないことを、この研究自体が示している。感染症対策を考えるうえでは、慢性疾患の管理だけでなく、免疫がどのように働き方を変えていくのかという視点も重要になる。