渡り鳥10万羽の湿地に、自然へ溶け込ませない鋼の塔 中国・武漢近郊
中国・武漢市近郊のチェンフー湿地の野鳥保護区に、渡り鳥を見るための塔ができた。周囲の湿地から19.8メートル立ち上がり、ほぼ全体が階段でできている。設計した上海の建築設計事務所Xiang Architectsは、この塔について、自然を隠したり真似たりするのではなく建築としてはっきり存在させたと説明する。デザイン専門メディアのDezeenが8月20日付で伝えた。
何が起きたのか
「チェンフー渡り鳥観察塔」と名付けられたこの塔が立つ湿地には、冬になると10万羽を超える渡り鳥が集まる。
塔はほぼ全部が階段でできている。階段は二重らせんに組まれ、上る人と下る人の動線が途切れずに続く。それぞれの階段の終わりは、ガラスをはめた小さなバルコニーのような空間になっていて、高さをずらした24か所の展望台ができる。
構造の考え方が変わっている。この階段が、塔を支える主要な構造そのものを兼ねている。事務所はこれを「従来の中心コアから離れる」試みだと表現した。24種類の規格化されたプレハブ部材で組み立てられ、階段は中央にある幅3メートルの空洞を取り囲む。全体を支えるのは、互いに逆向きにひねって配された鋼のブレースだ。
外側は全体が鋼で覆われている。周囲の自然の風景から際立って見えるようにするためだ。曇りの日には湿地の霧に溶け、晴れた日には青空を映し、日没時には琥珀色に光る。事務所は「自然を隠したり真似たりしようとするのではなく、この塔ははっきりとした建築としての存在を保ち、光と素材が絶えず作用しあうことを通じて周囲と関わります」と述べている。
登る体験そのものも設計されている。「体験は上る、曲がる、見渡すという三つの知覚の段階に組まれています」と事務所は言う。階段が一定の身体のリズムを作り、展望台が立ち止まって考える時間を与える。頂上に着くころには、最後に開ける眺めが単独の視覚的な出来事ではなく、旅の頂点のように感じられるという考え方だ。発注したのは武漢城建投資集団である。
背景
自然保護区に建てる観察施設で、目立たせるという選択は珍しい。この種の施設は世界的に、鳥を驚かせないために低く伏せ、周囲の色に近づけて作られてきた。英語で観察小屋を「ハイド」と呼ぶのは、隠れる場所という意味だ。
この塔はその作法をとらない。ただし派手にするために鋼を選んだのではないことは、事務所の説明の順序に表れている。鋼が持ち出されるのは、霧に溶ける、空を映す、夕日で色が変わるという文脈だ。溶け込ませないと決めたうえで、季節と天気で見え方が変わる素材を選んでいる。固定した姿を風景に置かない、という別の関わり方になっている。
構造の判断も同じ方向を向く。中心にコアを立てれば塔は簡単に建つが、真ん中が塞がる。階段自体を構造にしたことで、中央に幅3メートルの空洞が残った。
日本にとっての意味
この塔は、日本の自然公園には建てにくい。自然公園法施行規則第11条が定める許可基準は、工作物の形態や色彩が周辺の風致や景観と「著しく不調和でないこと」を求めている。溶け込ませることが、法令の側からの前提になっている。景観を守るための基準だが、同時に「際立たせる」という設計の選択肢を、あらかじめ狭くもしている。
日本の湿地にも観察の拠点はある。谷津干潟自然観察センター(千葉県習志野市)は1994年に開いた。谷津干潟が1993年に国内の干潟として初めてラムサール条約に登録された、その翌年である。日本列島も東アジアからオーストラリアへ渡る鳥の経路の上にあり、中国の長江流域の越冬地とは同じ経路でつながっている。見ている鳥は地続きだ。
どちらのやり方が正しいという話ではない。問いは、観察施設を風景の一部として消すのか、風景を見るための装置としてはっきり立てるのかにある。チェンフーの塔は後者を選び、しかも霧に溶ける素材でそれを行った。日本で同じ問いを立てたとき、法令の基準が答えを一つに寄せすぎていないかは、考えてみる価値がある。