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フィリピン最高裁、商業漁船の位置追跡義務は違憲と判断

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フィリピン最高裁は、商業漁船に位置情報の常時発信と電子漁獲報告を義務づけた規則を違憲とする判断を下した。零細漁業者らは、乱獲や大型船との競合ですでに疲弊している沿岸漁場の監視がさらに難しくなると懸念している。所管の漁業水産資源局(BFAR)は判断の見直しを求める申し立てを行っており、確定には至っていない。

何が起きたのか

フィリピン最高裁は現地の2026年1月21日付で、商業漁船すべてに追跡装置の設置と操業情報の電子報告を義務づけた「漁業行政命令266号」(FAO 266)を違憲とした下級審判決を支持する決定を出した。この決定は現地の8月3日に公表された。BFARは現地の8月14日、最高裁に対して判断の再考を求める申し立てを行った。これは判決が確定する前に、当事者が裁判所へ再審査を求められる手続きだ。

FAO 266は2020年10月に施行されたが、同年12月に商業漁業3社が提訴し、2022年2月にはBFARが裁判の係属を理由に運用を停止した。この時点で送信機が配布されていたのは、対象船2997隻のうち約52%にあたる1566隻だった。最高裁は、政府側がこの制度によって保護区の外側での違法・無報告・無規制漁業(IUU漁業)を検知できることを十分示せなかったこと、一部のデータが既存の報告と重複していたこと、常時追跡を義務づける明確な法的根拠がないことなどを理由に挙げ、正当な行政目的とその手段が合理的に結びついているかを問う「合理性の基準」を満たさないと結論づけた。訴えた企業側は、常時の位置追跡が不合理な捜索にあたり、操業海域や企業秘密を露呈させるうえ、商業船だけを対象にする点で不公平だと主張していた。

零細漁業者の全国組織Pangisda Pilipinasの代表パブロ・ロサレス氏は、Mongabayの取材に対し「装置が設置されていたときでさえ一部の船が沿岸の自治体水域に侵入していたのだから、最高裁が義務を違憲としたことで事態はさらに悪化しかねない」と述べた。衛星の光量データで商業船の侵入を検知する、海洋保全団体オセアナ・フィリピンズの監視システム「カラガタン・パトロール」によると、検知件数は2019年の4万4924件から新型コロナ流行下の2022年に2万6295件へ減少したものの、2025年も2万7351件にのぼり、依然として自治体水域への侵入が続いているとみられる。

背景

フィリピンでは、沿岸から15キロメートルほどの範囲が「自治体水域」として零細漁業者に優先的に割り当てられており、大型の商業船の侵入は法律で規制されている。しかし地方自治体の多くは巡視船や人員、燃料が不足しており、独自の取り締まりが難しい。位置追跡と電子漁獲報告は、こうした侵入や漁場の乱獲状況を国が把握するための実務上の柱として、2018年にマグロやサバなど回遊性魚種を対象に導入され、2020年のFAO 266で全商業船へと拡大された。

この制度整備の背景には、欧州連合(EU)の存在がある。EUは2014年、フィリピンのIUU漁業対策の不備を理由に、輸入停止につながりかねない警告「イエローカード」を出した。これを受けてフィリピン議会は2015年に漁業法を改正し、監視・管理・監督の体制を強化した結果、EUは警告を解除した経緯がある。つまり位置追跡制度は、単なる国内の漁業管理策ではなく、国際的な水産物市場からの信頼を維持するための仕組みでもあった。今回の違憲判断で運用の法的根拠が失われたことで、この体制の一部が空白になる可能性がある。

日本にとっての意味

日本はフィリピンから水産物を輸入する国の一つであり、違法・無報告漁業への対策強化は各国共通の課題になっている。近年は欧米や日本を含む輸入国側で、漁獲物がどの海域でどの船によって獲られたかを追跡できる「トレーサビリティ」を求める動きが強まっているとされ、船舶の位置追跡と漁獲報告はその土台となる仕組みだ。フィリピンでこの制度の法的根拠が失われれば、輸出される水産物の由来を裏づけるデータの信頼性が一時的に弱まる可能性があり、日本の食卓に届く輸入水産物の由来確認にも間接的に関わってくる。

また、この訴訟は日本の漁業政策を考えるうえでも参考になる。日本でも漁船の位置情報や操業データの電子的な管理は資源管理の重要な手段になりつつあるが、今回のフィリピンの事例は、監視の強化が漁業者のプライバシーや営業上の秘密とどう両立するかという論点を、司法判断という形で具体的に示した数少ない例といえる。