米国、今秋のインフル・コロナワクチン供給は例年通りと専門家
米国で今秋のインフルエンザと新型コロナウイルスのワクチンについて、専門家が、希望する人は接種でき、保険も適用されるとの見通しを示した。連邦政府の予防接種諮問委員会が指針を出していない異例の状況の中、医師会などの専門家団体が代わって接種を推奨している。
何が起きたのか
米感染症学会(IDSA)の広報を務めるバンダービルト・ヘルスの感染症学教授ウィリアム・シェフナー医師は、CIDRAPニュースの取材に対し、更新版のインフルエンザワクチンとコロナワクチンは提供されるとしたうえで、「ここまでは通常通りだ」と述べた。米食品医薬品局(FDA)は今春、今シーズンのワクチンの組成について判断を示したが、米疾病対策センター(CDC)傘下の予防接種諮問委員会(ACIP)は両ワクチンについて指針を出していない。
この空白を埋める形で、米国小児科学会や米国家庭医学会、米国内科学会などの専門家団体が定期接種を推奨している。IDSAとミネソタ大学感染症研究政策センター(CIDRAP)のワクチン整合性プロジェクトは、免疫不全のある成人・子どもへのコロナワクチン接種と、毎年のインフルエンザワクチン接種を推奨している。米国小児科学会感染症委員会のジェームズ・キャンベル医師は「生後6カ月以上の全員にインフルエンザワクチンが推奨される」とし、死亡に対するワクチンの有効性はおよそ80%にのぼると説明した。
保険適用についても、キャンベル医師は、連邦政府を含む保険者が子どものワクチン費用負担をやめる理由は今のところ見当たらないと述べ、入院治療の費用と比べればワクチンは安価だと指摘した。各地の診療所や病院はすでに今シーズン分のワクチンを確保しているという。
なお8月上旬にFDAは、50〜64歳を対象にモデルナ製のmRNA方式インフルエンザワクチン「mFlusiva」を承認した。薬局を通じて流通が始まる見込みだが、当面は自分から希望を申し出る必要があるとみられる。
背景
米国では例年、CDC傘下のACIPが季節性ワクチンの推奨対象や接種方法について公式な指針をまとめ、それが保険適用や医療現場の判断の基準になってきた。ところが今年はこの委員会から指針が示されないまま接種シーズンを迎えている。米国では近年、ワクチン政策をめぐって連邦政府と医学界の間で意見の対立が続いており、今回の事態もその延長線上にある出来事だ。
ACIPの空白を埋めているのが、小児科学会や家庭医学会といった専門家団体、そして地方や州の公衆衛生当局だ。ボルティモア市保健局のミシェル・テイラー局長は、地方と州の公衆衛生が今まさに穴を埋めていると述べ、呼吸器感染症の季節にどう対応すべきかは毎年やってきたことで分かっていると語った。連邦の指針がなくても、医療機関や保険会社が例年通りの体制を維持している点が、今回の報道の要点といえる。
日本にとっての意味
日本では、厚生労働省が審議会での議論を経て毎年、インフルエンザワクチンの製造株を決め、供給量の見通しも示しており、米国のように諮問委員会が指針を出せなくなる事態は想定しにくい。ただし、その製造株の選定は世界保健機関(WHO)が推奨する株に基づいて行われている。
また、モデルナ製のmRNA方式インフルエンザワクチンが米国で承認されたことは、今後日本国内での薬事承認や導入の議論に影響する可能性がある。従来の不活化ワクチンに比べ効果が高いとされる新方式のワクチンが、まず米国で市場に出て実績を積む流れは、これまでの新型コロナワクチンでも見られたパターンだ。
日本の読者にとっては、米国の混乱した政策状況そのものよりも、そこで結局は専門家団体や保険会社が実務を支えて接種体制を維持したという結果に注目する価値がある。ワクチン政策が政治的な対立の影響を受けやすいのは日本も例外ではなく、制度の土台がどこにあるかを知っておくことは、今後の予防接種行政を見る上での参考になる。