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ジャッドが遺した「砲兵庫」修復へ 空調を入れないまま作品を守る 米マーファ

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米テキサス州マーファのチナーティ財団(Chinati Foundation)で、彫刻家ドナルド・ジャッドの作品群を収める「砲兵庫(Artillery Sheds)」2棟の修復計画が、8月19日付で伝えられた。設計を担うのはテキサスの建築事務所シャウム・アーキテクツ。修復の眼目は、機械設備をいっさい持たないこの建物に、来館者に気づかれない換気の仕組みを仕込み、空調を入れないまま作品を守り続けることにある。

何が起きたのか

シャウム・アーキテクツは設計担当(デザイン・アーキテクト)として修復チームに加わる。チナーティ財団側からは事務局長ケイトリン・マレー氏、保存計画部長スティーブン・マーティン氏、保存修復責任者ボグナ・スクワラ氏らが参加し、専門家のチームで進める。

創設者のトロイ・シャウム氏は、方針を「縁だけに手を入れる」編集のような仕事だと説明する。同氏は「この建物には外皮と呼べるものが実際には無く、内と外がつながっている。だからこの仕事は、統合されたひとつのものとして考えなければならない」と語り、建物の修理と敷地の復元を別々の作業として扱わない考えを示した。

具体的には、金属屋根の縁に補強材を入れて風への強度を高め、あわせて、この建物にとって初めてとなる適切な寸法の雨樋を設ける。雨水は敷地へ流し、ヒューストンの造園事務所Dept LLCと地元の造園家ジム・マルティネス氏が手がけるランドスケープの復元に使う。敷地には軍用地だった時代の荒廃が残っており、その復元と、車椅子で回れる歩道の整備も計画に含まれる。

工事中、砲兵庫は閉鎖される。収蔵するアルミニウムの作品群は、設置以来初めて建物の外へ運び出される。美術館のほかの展示は開館を続ける。

背景

砲兵庫はもともと1930年代に建てられた軍の倉庫で、ジャッドが1980年代に手を入れた。かまぼこ型の屋根を載せ、ガレージの扉を4分割の窓に置き換えたのはジャッド自身である。中には切削アルミニウムの立体作品群が並ぶ。同じ寸法の箱がひとつずつ異なる内部を持つ代表作で、100点からなるとされる。窓から入る西テキサスの光がアルミの面に反射する様子まで含めて作品とされており、建物と作品を切り離せないことが、この修復を難しくしている。

最大の難所は温度の管理だ。建物には現在、空調も換気も機械設備が何も無い。修復チームは静かで低炭素な運用を保つことを選び、床のコンクリートに元からある伸縮目地を使って、太陽光発電で動く低エネルギーの濾過換気を仕込む。ガラスは処理し直し、室内をわずかに正圧に保って埃を締め出し、温度を許容範囲まで下げる。事務所はこれを「来館者が見ることも聞くこともないシステム」と呼ぶ。

事務所によれば、この手法は世界の保存実務で起きつつある転換の最前線にある。温湿度を一定に保つ「美術館標準」の環境を追うのではなく、極端な状態だけを和らげる。作品の長期的な保存に必要な条件と、エネルギーの消費、そして完全空調が損なう空間の体験とを天秤にかける考え方である。

シャウム氏はシャウム/シー(Schaum/Shieh)の共同主宰を経て独立し、マーファにあるジャッドの建築事務所の改修を最近完了させた。ジャッドがニューヨークに残した自宅兼スタジオも、2013年に別の事務所AROが修復している。

日本にとっての意味

温湿度を一定に固定する美術館の常識を見直す動きは、国際的に進んでいる。主要美術館の館長会議ビゾー・グループは2015年、貸出作品の環境条件を温度16〜25度、相対湿度40〜60%まで許容する「グリーン・プロトコル」を打ち出した。従来の基準より幅を広げ、空調のエネルギーを減らすための指針で、今年3月にはゲッティ美術館やロサンゼルス・カウンティ美術館などロサンゼルスの主要館が揃って採用を表明した。

日本の美術館・博物館にとって、これは他人事ではない。2023年には東京国立博物館の館長が「このままでは国宝を守れない」と題する文章を発表し、年2億円ほどだった光熱費が倍以上に膨らむ見通しを明らかにした。国立科学博物館は同じ年、光熱費の高騰などを理由にクラウドファンディングで約9億円を集めている。作品を守るための空調が、作品を守る組織の財政を圧迫するという構図である。

マーファの修復は、この問いへのひとつの答えを実物で示そうとしている。環境を固定するのではなく極端だけを均し、足りない分は建物の側の工夫で補う。空調費に苦しむ日本の館にとって、砂漠の美術館の「見えない空調」がどこまで機能するかは、確かめる価値のある実験といえる。