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スミソニアン、ラティーノ博物館を議会承認なしで既存建物に開設検討

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米首都ワシントンにあるスミソニアン協会の理事会が、現地の8月31日に会合を開き、新設予定の「国立ラティーノ系アメリカ人博物館(National Museum of the American Latino)」を、ナショナル・モールにある歴史的建造物「アーツ・アンド・インダストリーズ・ビルディング」に開設する案を協議する。米紙ニューヨーク・タイムズによれば、既存の建物を使えば議会の承認手続きを経ずに済み、トランプ政権との政治的な対立を避けられるという。

何が起きたのか

アーツ・アンド・インダストリーズ・ビルディングは、ナショナル・モール(ワシントンの中心部にある広場沿いの一帯)に立つスミソニアン協会最古級の建物の一つで、1881年に開館した。設計はアドルフ・クルスとポール・シュルツェによる。開館の年にはジェームズ・ガーフィールド大統領の就任式舞踏会の会場となり、その数か月後には米国初の国立博物館として一般公開された。1971年に国定歴史建造物に指定されたが老朽化が進み、2004年に閉鎖。2006年には全米で最も存続が危ぶまれる歴史的建造物の一つに挙げられた。以来20年以上、資金難で断続的に修復工事が続き、現在は特別展や催事の際にのみ限定的に公開されている状態で、現地の9月7日にはさらなる改修のため再び閉館する予定だ。

この建物は2022年、ラティーノ博物館とスミソニアン・アメリカ女性史博物館の候補地の一つとして名前が挙がっていた。両博物館はいずれも議会の承認を経て、トランプ大統領が1期目だった2020年に法律として成立している。その後、両館とも新築の専用施設を建てる方向で計画が進んでいた。ところが女性史博物館は2026年5月、施設の最終的な立地を定める議会法案が下院で否決されるという壁にぶつかった。法案には、プログラムからトランスジェンダー女性を除外する条項や、トランプ大統領が立地決定を覆せる抜け道を設ける修正が土壇場で加えられていたという。

ラティーノ博物館の側も政治的な攻防の的になってきた。2023年には、展覧会「¡Presente! A Latino History of the United States(プレセンテ! 合衆国のラティーノの歴史)」が共和党側の反発を招いた。ヨーロッパによる植民地支配や米国のラテンアメリカへの軍事介入に関する展示に比重を置きすぎ、フィデル・カストロのような左派の権威主義的指導者への批判が足りないという主張だった。さらに2026年5月、トランプ大統領は議会への予算教書で、ラティーノ博物館そのものへの予算を打ち切り、代わりにスミソニアン傘下の既存博物館群で展示企画を回す「スミソニアン・ラティーノ・センター」への転換を求めた。こうした経緯を踏まえると、スミソニアン協会の執行部が議会の関与を最小限にする形で開設を進めようとするのは驚くに値しない、との見方がある。この動きは、理事会メンバー数名の任期満了を目前に控えたタイミングで進められているという。共和党側はこれに反発しており、米メディア「ワシントン・エグザミナー」に寄稿したマイク・ゴンザレス氏は「スミソニアン協会は抜け道を使い、いまだ行き場のない、論争を呼んできた博物館の建物をこっそり用意しようとしている」と論評している。

背景

スミソニアン協会は米国政府が設立した博物館・研究機関の連合体で、国立自然史博物館や国立航空宇宙博物館など多数の施設をナショナル・モールに構える。新しい国立博物館を新築で開設するには通常、議会の法制化を経る必要があるが、既存の歴史的建造物の中に博物館を「間借り」させる形であれば、その手続きを迂回できる可能性があるというのが今回の争点だ。米国では近年、博物館の展示内容が政治的な立場と結びつけられ、与野党の攻防の材料になる場面が増えている。ラティーノ博物館や女性史博物館は、いずれも人種や性別、移民といったテーマを扱う性質上、共和党の一部から「特定の政治的立場に偏っている」との批判を受けやすい立ち位置にある。今回のアーツ・アンド・インダストリーズ・ビルディング案も、そうした政治的な摩擦を避けつつ博物館を実現させたいスミソニアン側の思惑が背景にあるとみられる。

日本にとっての意味

日本では、国立博物館の設立や展示内容がここまで大きな政治対立の火種になることは少なく、制度としての接点は薄い。ただし実際的な影響はある。アーツ・アンド・インダストリーズ・ビルディングは現在、特別展や催事の際にのみ公開されており、現地の9月7日からは改修のため閉館する予定だ。ワシントンでスミソニアンの各館を回る予定の旅行者にとっては、当面この建物には入れないことになる。加えて、ラティーノ系住民の歴史を国立博物館という場でどう描くかという議論は、多様な出自を持つ人々の歴史を公共の施設がどう扱うかという問題でもあり、外国籍住民が増える日本で博物館や自治体の展示を考えるうえでの参照点になる。米国の博物館政治の一断面として、今後の展開を追う価値がある。