分娩時のコロナ感染、変異株ごとにお産のリスク変化 米研究
米保健福祉省などの研究者らが、分娩時に新型コロナウイルスに感染していた妊婦は、母親と赤ちゃんの双方で望ましくない転帰のリスクが高かったとする研究結果を学術誌PLOS Oneに発表した。約260万件の出産の入院記録を分析したもので、感染時期によってリスクの大きさが変わることも分かった。
何が起きたのか
研究チームは、2020年4月から2023年3月までに米国で記録された出産の入院記録、約260万件を対象に、後ろ向きコホート研究(過去の入院記録をさかのぼって比べる調査手法)を行った。このうち53,226件、全体の2.1%が新型コロナウイルス感染症と診断されていた。分析では、流行の時期を、アルファ株が広がる前の時期(pre-Alpha)、アルファ株流行期、デルタ株流行期、最初のオミクロン株流行期の4つに分けて比較した。
その結果、分娩時に新型コロナウイルスに感染していた場合、妊娠20週以降の胎児の死亡のリスクが、アルファ株流行前の時期とデルタ株流行期において高かった。母親が集中治療室に入る割合や、早産となる割合は、調査対象期間を通じて感染例で高かった。帝王切開の割合も、アルファ株流行期と最初のオミクロン株流行期を除き、調査期間を通じて上昇していた。研究チームは、こうしたリスクは変異株ごとに大きさが変わっており、特にデルタ株流行期に最も深刻だったと報告している。論文の中では「新型コロナウイルスに関連する産科リスクは一定ではなく、変異株の流行時期によって変化した」と述べ、感染症の流行パターンが変わり続ける中で、妊産婦の健康状態を継続的に監視し、対応策を柔軟に見直す必要性を指摘した。
背景
新型コロナウイルスの流行は、2020年からの約3年間で主流となる変異株が何度も入れ替わった。アルファ株、デルタ株、オミクロン株はそれぞれ感染力や重症化のしやすさが異なるとされ、流行のたびに医療現場の対応も変わってきた。今回の研究期間には、ワクチンの普及や過去の感染によって人々の間に一定の免疫が蓄積していったこと、医療現場での治療法や妊婦への対応が段階的に整備されていったことも重なっており、変異株ごとのリスクの違いには、こうした要因も影響したとみられる。単純に変異株そのものの性質だけでリスクの差を説明するのは難しい。
新型コロナウイルスに感染した妊婦では、早産のリスクが高まることが過去の研究でも指摘されてきた。今回の研究は、そうした知見を裏付けるとともに、リスクの大きさが流行の時期によって変わりうることを、大規模な入院記録をもとに示した点に意味がある。ただし、この研究はあくまで感染と転帰の関連を示したもので、感染がリスクを直接引き起こしたと証明するものではない。
日本にとっての意味
この研究そのものはワクチンの効果を調べたものではなく、分娩時の感染の有無と転帰の関連を分析したものにすぎない。それでも、分娩時の感染がリスクを高めうるという知見は、妊婦へのワクチン接種が各国で推奨されてきた経緯を考える際の材料の一つになる。日本でも妊娠中の新型コロナワクチン接種は医療機関を通じて案内されてきたとみられるが、接種するかどうかの判断は、こうした感染時のリスクに関する情報と、接種のリスクや効果に関する情報の両方を踏まえて行われるべきものだ。
日本には、妊婦健診や母子健康手帳を通じて妊娠経過を追う仕組みがあり、感染症の流行期には、分娩を扱う医療機関が妊婦の受け入れ体制をどう確保するかが課題になった経緯もある。今回のような米国発の大規模データが、今後の国内での議論や調査の参考材料になる可能性はある。