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インドネシア、ニッケル減産で価格回復も石炭依存は残る

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インドネシア政府が2026年、世界のニッケル生産の6割を占める自国の生産枠を前年比で約3分の1削減した。供給過剰で下落し続けていた価格を押し上げる狙いで、実際に価格は回復した。ただし、精錬工程の大半を石炭火力に頼るという業界の根本的な問題には手が付いていない。

何が起きたのか

インドネシア政府は2026年、ニッケルの生産枠を2025年比で約3分の1削減した。世界最大のニッケル鉱山であるウェダ・ベイ(Weda Bay)は割り当てを7割以上削られ、5月末には年間枠を使い切って採掘を全面停止した。当局が延長を認めない限り、来年まで大規模な採掘は再開できない。

背景にあるのは価格の急落だった。ニッケル価格は2023年だけで4割以上下落し、供給が伸び続けたことで2025年末には1トンあたり約1万4200ドルまで落ち込み、過去4年で最も安い水準となった。生産枠の削減後、価格は5月に1トンあたり2万ドルまで回復し、2024年以来の高値をつけた。インドネシアのシンクタンク、経済・法研究センター(CELIOS)の研究者らは、価格の押し上げという政策目的に照らせば、この政策は機能したと評価している。

この政策には、インドネシアの鉱石を精錬するために巨額を投じてきた中国企業の業界団体が強く反発し、プラボウォ・スビアント(Prabowo Subianto)大統領に対し500億ドル規模の投資が危険にさらされると警告した。ただしCELIOSの研究者らは、その投資の多くはインドネシア産の鉱石を処理するために建設された精錬所や加工施設に固定されており、簡単に他国へ移せるものではないため、ジャカルタ側には警告が示唆するよりも強気に出られる余地があると指摘する。

並行して、政府の森林タスクフォースは2025年1月の発足以来、森林保護区で違法に操業していた鉱山や農園から400万ヘクタール以上の土地を押収し、約2兆3000億ルピア(約1億3600万ドル)相当の罰金を徴収した。このなかにはウェダ・ベイから押収された148ヘクタールも含まれる。違法な零細採掘によるニッケル生産の割合も、2022年の24%から2024年には10%に下がったという。

こうした取り締まりの背景には、深刻な環境被害がある。オビ島では2025年6月、大雨の後に廃棄物の貯留池が決壊し、3つの村が浸水して住民1人が死亡した。企業内部の水質検査では、発がん性物質である六価クロムが法定基準を大きく超えて検出された。世界有数のサンゴ礁が広がるラジャ・アンパット(Raja Ampat)周辺では、鉱山の採掘範囲が近年急速に拡大していると報告されている。

背景

ニッケルは電気自動車(EV)用バッテリーの主原料の一つで、インドネシアはこの10年、安価な鉱石を大量に採掘することで世界シェアを一気に押し上げてきた。だが供給が需要を上回るペースで増え続けたため、自ら価格の下落を招く結果となった。今回の生産枠削減は、量を追う戦略から、より高値で取引される「低炭素ニッケル」を作る戦略への転換を模索する動きの一環とみられる。

市場はすでにこの動きに反応しつつある。低炭素ニッケルは1トンあたり1万8800〜1万9300ドルで取引され、通常品の1万7900〜1万8300ドルより高く取引されているとされる。欧州連合(EU)が輸入品に対して導入した新しい排出規制に対応するため、自動車メーカーがより環境負荷の低い材料を求めていることが背景にある。バレ・インドネシア(Vale Indonesia)が南スラウェシで運営する精錬所は、ほぼ全量を水力発電でまかなっている。

ただし、この価格プレミアムは業界全体の課題を解決するものではない。インドネシアの主要ニッケル生産者は2023年時点で推計1500万トンの温室効果ガスを排出しており、その多くは精錬所を動かす石炭火力に由来するとみられる。生産枠の削減や違法採掘の取り締まりが進んでも、最も汚染度の高い燃料で鉱山と精錬所を動かし続けているという構造は変わっていない。

日本にとっての意味

日本の自動車メーカーや電池メーカーは、EV用バッテリーの原料としてインドネシア産ニッケルに依存する部分が大きいとみられる。EUが輸入品への排出規制を強め、低炭素ニッケルに価格差が付き始めている以上、日本企業も今後、調達するニッケルがどのような電源で精錬されたものかを問われる場面が増えるとみられる。石炭火力に頼ったままの精錬所から調達を続ければ、将来的に欧州向け輸出や国際的なサプライチェーン評価で不利になる可能性がある。

一方で、生産枠の縮小と価格上昇は、日本の完成車・電池メーカーにとって調達コストの上昇要因にもなる。ウェダ・ベイのような主要鉱山が年内の大規模採掘を停止している状況は、供給の不安定さという形でも影響しうる。インドネシアの環境規制の運用や、生産枠政策の行方は、単なる資源国のローカルな話ではなく、日本のEV戦略やバッテリー調達コストに直結する話として注視する価値がある。