ケララ州丘陵地、花崗岩の農家の下に野外寺院
インドの設計事務所エボルビング・ラディカル・エステティクス(Evolving Radical Aesthetics)が、ケララ州の急な丘の斜面に建つ農家住宅「Ushas(ウシャス)」を完成させた。地元産の黒い花崗岩を積んだ家で、擁壁をうがって野外の寺院が組み込まれている。デザイン誌Dezeenが8月24日付で紹介した。
何が起きたのか
住宅が建つのはコーリコード近郊のマラバル丘陵。都会の暮らしを離れ、農地を耕すためにアンドラ・プラデシュ州から移り住んだ引退後の夫婦のために設計された。
家は3つの石造ボリュームを雛壇状にずらして並べた構成で、この地方の伝統的な農家に着想を得ている。敷地を平らに造成するのではなく、地形の等高線に沿わせて配置した。事務所の主宰建築家でパートナーのムハンマド・アシーク氏はDezeenの取材に「地形が私たちの基準面になった。向きも、レベルも、動線も、構造の論理も、素材までも、地形が決めた」と語る。
ランドスケープアーキテクトでパートナーのルムナ氏は「場所の感覚を失うほど非現実的な敷地には、そう出会えるものではない」と話し、「建てること自体が害を与える行為だ。だから、何が必要で、手つかずの土地をどこまで乱してよいのかを考えた。敷地への影響を最小限にして建てたかった」と述べている。
石のボリュームの間を通る通路が家の主動線となり、居間や寝室と周囲の農地をつなぐ。通路の先には、読書と、南アジアの弦楽器ヴィーナの練習のための専用室があり、ガラスの壁がそのまま風景に向かって開く。主動線沿いには農作業者のための小屋も並び、住まいであると同時に働く農家でもあるこの家の性格を映している。寝室は丘を見下ろす屋根付きのテラスに直接つながり、居間は勾配屋根の下の全面ガラス越しに周囲の山並みを見渡す。
背景
壁は地元で採れた黒花崗岩を厚く積んだ組積造で、その上に、波形の亜鉛めっき鋼板と細い鉄骨の垂木、伝統的なマンガロール瓦でふいた屋根が大きく張り出し、ケララの激しいモンスーンの雨からベランダを守る。建物は北東の卓越風を捉える向きに振られ、花崗岩の壁が室内を涼しく保つ。アシーク氏は「深い庇が雨と日差しから家を守り、外に出て座ってくつろげるベランダもつくり出す」と説明する。丘の上の強風で瓦が割れたり飛ばされたりしないよう、瓦の下には波形鋼板の層を隠して敷き、この層が雨水を軒先へ導く役割も担う。ルムナ氏は「壁づくりは洞窟をつくる行為、ごく原初的な住まいの形をなぞった」と話し、「家が大地と一体に感じられることを望んだ。軽い屋根のおかげで、目立つものを何も押しつけずに済む。主役はあくまで丘であってほしかった」と語る。
敷地の下段では、母屋の外から四角く切った花崗岩の階段を下りると、擁壁に組み込まれた野外寺院に至る。真上には居間が張り出し、片持ちの屋根に守られた瞑想の場がつくられ、山に向かって石の演台が置かれている。ルムナ氏は「擁壁に彫り込まれた寺院の上に居間が張り出す構成は、石窟寺院を思わせる、孤独と瞑想のための空間だ」と述べ、「山並みを背に踊りを捧げるための演台もある」と話す。
周囲の造園も敷地の等高線を引き継ぎ、段状の植栽帯と散策路が続く。もともとほとんど不毛だった土地に、住み手の夫婦が在来の樹木や野菜、熱帯の植物を少しずつ植えてきており、農家は土地とともに育ち続けている。エボルビング・ラディカル・エステティクスは、ルムナ氏とアシーク氏が2012年に設立したコーリコード拠点の事務所で、地域の気候・素材・地形に根ざした住宅設計を主に手がけている。
日本にとっての意味
急斜面の敷地を造成で平らにせず、建物の側を地形に合わせて割り付けるという設計は、山がちな国土に住宅を建ててきた日本でも古くからある知恵であり、擁壁とその上の建物を一体で設計して祈りの場まで組み込む今回の解き方は、その現代的な応用例として興味深い。石積みの厚い壁で熱をさえぎり、卓越風を取り込み、深い庇で雨と日差しをしのぐという受動的な工夫の積み重ねは、空調に頼らない住宅設計を模索する日本の設計者にも通じる。
また、住まいに農地や信仰の場、楽器の練習室までを束ね、暮らし全体を一つの敷地に編み込む発想は、地方移住や二拠点生活で「住むこと」と「営むこと」を重ねようとする日本の動きとも響き合う。引退後の移住者が土地を耕しながら家とともに庭を育てていくという物語は、終の住処のあり方の一つの参照例になるだろう。