デザイン・雑貨・イベント

マイアミ市民投票、キャンデラ設計の海洋競技場再生を承認

米国 の記事一覧 ・ 南北アメリカ

米マイアミ市の住民投票で、歴史的建造物マイアミ海洋競技場(Miami Marine Stadium)の管理を、スポーツ・ライブエンターテインメント施設の開発・運営を手がける米デンバーのオーク・ビュー・グループ(Oak View Group)に委ね、建物を修復する案が承認された。1963年に建てられた同競技場はハリケーン被害により1992年から閉鎖されたままで、30年以上に及んだ放置状態からの再生に道が開かれた。デザイン誌Dezeenが8月25日付で伝えた。

何が起きたのか

マイアミ市は現地の8月18日、予備選挙に合わせて特別選挙を実施し、オーク・ビュー・グループの子会社グローバル・スペクトラム(Global Spectrum LP)との管理契約の是非を問う住民投票を行った。投票では68%を超える賛成で契約が承認された。

案では、同グループが海洋競技場とその周辺一帯の活用とイベント運営を担い、近くのマリーナや、周辺で構想されている公園「フレックス・パーク(Flex Park)」も対象に含まれる。建物は「最新鋭の会場として再構想」される計画だ。投票のサンプル用紙には、リース期間を40年とすること、グローバル・スペクトラムが「歴史あるマリン・スタジアム」の修復に向けて最大1000万ドルを市に支払うことが記されており、業界誌BoatingIndustryによれば納税者の負担は生じないという。地元のブレイクウォーター・ホスピタリティ・グループ(Breakwater Hospitality Group)も管理契約に加わる。

オーク・ビュー・グループで会場運営部門の社長を務めるグレッグ・オデル氏は声明で「マイアミで最も大切にされてきたランドマークの一つを修復する重要な一歩を、マイアミの人々が前に進めてくれたことに喜びを感じている。マイアミ海洋競技場は単なる会場ではなく、マイアミの活気ある歴史と未来の象徴だ」と述べ、「地元のパートナーであるブレイクウォーター・ホスピタリティ・グループとともに、この遺産に敬意を払いながら、次の世代に受け継がれ、地域の文化をたたえ、地域全体の経済成長を後押しする活気ある場所をつくることで、マイアミ市を支えたい」と語った。

背景

マイアミ海洋競技場は、キューバ出身の建築家ヒラリオ・キャンデラの設計で1963年に建てられたコンクリートのモダニズム建築だ。1992年のハリケーン・アンドリューによる被害を受けて閉鎖され、市と住民がその処遇を議論する間、数十年にわたって放置されてきた。

支援団体ブリング・バック・マリン・スタジアム(Bring Back Marine Stadium)とブレイクウォーター・ホスピタリティ・グループによれば、次の段階としてオーク・ビュー・グループが「改修後の競技場についての包括的な調査と将来像の検討」を行い、市や保存団体、地域コミュニティ、マイアミの文化・経済界と緊密に連携して計画を進める。フレックス・パークの管理契約の交渉も始まるという。関係チームはこの事業を「ここ数十年で市の最も野心的な文化再生プロジェクトの一つ」になるとしている。

市民や社会がこの競技場の再生を後押しするのは今回が初めてではない。2016年にはビール大手ハイネケンと米ナショナル・トラスト・フォー・ヒストリック・プリザベーション(National Trust for Historic Preservation、歴史保存ナショナルトラスト)が修復資金を募るクラウドファンディングを実施し、2022年にはモダニズム建築の保存団体ドコモモ(Docomomo)が同競技場を米国で最も存続が危ぶまれる建物の一つに挙げていた。

日本にとっての意味

戦後のコンクリート建築をどう残すかという課題は日本にも共通する。日本では2022年に黒川紀章設計の中銀カプセルタワービルが解体されるなど、モダニズム建築の保存と活用は繰り返し議論になってきたが、老朽化した建物の改修費用を誰が負担するかが常に壁になる。

今回のマイアミの事例は、住民投票で民意を確認したうえで、40年の長期リースと引き換えに民間企業が修復費用を負担し、納税者の負担なしで再生を進めるという枠組みを示した点で興味深い。閉鎖から30年以上を経た建物でも、市民団体の働きかけと民間資金の組み合わせで再生の道筋がつくられ得ることは、遊休化した公共建築を抱える日本の自治体にとっても参考になる例といえる。