パキスタン軍トップがテヘラン訪問、米イラン合意の再建へ仲介
パキスタン軍のアシム・ムニル参謀総長が現地時間8月24日、イランの首都テヘランを日帰りで訪れ、ペゼシュキアン大統領ら政府高官と会談した。同行したナクヴィ内相は「大きな進展があった」とSNS上で明らかにしたが、具体的な内容は示していない。焦点は、米国とイランが交わしたものの失効した合意「イスラマバード覚書」をどう再建するかにある。
何が起きたのか
ムニル参謀総長はテヘランで、ペゼシュキアン大統領のほか、議会議長で交渉責任者のガリバフ氏、最高国家安全保障会議で最高指導者代表を務めるレザイ氏、モメニ内相と相次いで会談した。パキスタン軍の発表によると、協議の中心は事態のさらなる悪化を防ぐ方策、ホルムズ海峡の再開、そして紛争の早期終結だったという。両者はまた、地域の和平と交渉による解決の道筋についても意見を交わした。
ナクヴィ内相は、協議の柱として「イスラマバード覚書(Islamabad MoU)」の再建に向けて米イラン双方が取るべき措置を挙げたと説明した。覚書の具体的な中身には触れていないが、米国とイランの対立を収める枠組みとしてパキスタンが仲介役を担ってきた経緯がうかがえる。イラン側はパキスタンの「建設的な役割」と対話促進への努力を評価したとされる。
背景
ホルムズ海峡はペルシャ湾の出入り口にあたる幅の狭い海峡で、世界で流通する原油やLNG(液化天然ガス)の相当量がここを通過する。米国とイランの衝突が2026年2月に始まって以降、海峡は事実上封鎖された状態が続いていると報じられており、6月に両国が交わした「イスラマバード覚書」には海峡の再開が盛り込まれていたが、覚書はその後失効した。
パキスタンは核保有国でイランと国境を接し、両国は歴史的に一定の関係を維持してきた。今回、外交を主導しているのが外務省ではなく軍のトップであるムニル参謀総長だという点は注目に値する。パキスタンでは軍が国家の安全保障や対外関係において大きな発言力を持つ構造が長く続いており、今回の訪問もその延長線上にあるとみられる。米国とイランの当局同士が直接向き合う場が見当たらない中、双方と一定の信頼関係を築けるパキスタンが仲介の窓口になっている構図と言える。
日本にとっての意味
ホルムズ海峡は日本が輸入する原油やLNGの多くが通過する航路であり、日本のエネルギー安全保障に直結する。海峡の緊張が高まれば輸送保険料の上昇や供給の遅延を招き、電気料金やガソリン価格といった形で国内の生活に跳ね返る可能性がある。今回の会談で「再開」という言葉が出たこと自体、日本のエネルギー調達に影響しうる緊張が現地にあったことを示している。
また、イラン情勢をめぐる報道は、これまでワシントンやイスラエル側の視点から伝えられることが多く、パキスタンという第三の当事者が果たす役割は日本ではあまり知られていない。今回のように軍トップが外交の前面に立つ動きは、パキスタン国内での軍と政府の力関係を映す事例でもあり、この国が地域で担う仲介機能を理解しておくことは、中東情勢を多角的に読み解くうえで役立つはずだ。