パーム油の森林破壊ゼロ誓約、守られたが上乗せ効果は確認されず
インドネシアのパーム油生産に関する新しい研究が、企業の「森林破壊ゼロ」誓約(zero-deforestation commitment、ZDC)はおおむね守られていたものの、誓約を掲げなかった企業と比べて森林破壊を追加で減らした証拠は見つからなかったと結論づけた。誓約自体が破られたわけではなく、業界全体で進んでいた森林破壊の減少に、誓約が上乗せの効果をもたらしたとは言えないという内容だ。
何が起きたのか
国際的な研究チームが米科学誌『米国科学アカデミー紀要(PNAS)』に発表した研究では、インドネシアのパーム油生産に使われる「コンセッション」(concession、政府が企業に開発を認めた区画)を対象に、供給網が森林破壊ゼロ誓約と結びついた区画と、そうでない区画の森林破壊の推移を比較した。
公開データベースをもとに誓約を掲げた企業を特定したところ、対象企業の多くは誓約を実際に守っていたことが分かった。しかし誓約と結びついた区画と、結びついていない区画の両方で、2018年から2020年にかけて年間の森林破壊率がおよそ0.5%まで低下しており、その差はごくわずかだった。
研究チームの推計では、誓約と結びついた区画での減少幅は6.5ポイント、結びついていない区画では6.63ポイントで、誓約による追加の減少効果は0.12ポイントにとどまった。この数値は推計の誤差の幅とされる0.67ポイントよりも小さく、統計的には差があるとは言えない水準だという。研究チームの一人、ロバート・ハイルマイヤー氏は「森林破壊ゼロ誓約を掲げた企業も、掲げていない企業も、森林破壊は同じように大きく減少している」と述べている。
背景
研究チームは、この結果の背景として複数の要因を挙げている。一つは、調査対象となった区画の多くがすでに「古いフロンティア」だった点だ。誓約と結びついた区画では、2012年時点で2000年当時にあった森林のおよそ半分をすでに失っており、区画全体に占める森林の割合は11%にまで減っていた。誓約と結びついていない区画も、2000年以降に54%の森林を失い、2012年時点で残る森林はおよそ10%とほぼ同じ経過をたどっていた。つまり、誓約が結ばれた時点で、そもそも守るべき森林が両方の区画にあまり残っていなかったことになる。
もう一つの要因として研究チームが挙げるのは、パーム油の国際価格の下落だ。2018年から2020年の価格は2001年から2012年に比べて大幅に低く、新規の開発投資が利益を生みにくくなったことで、企業が区画内の森林を新たに切り開く動機自体が弱まった可能性があるという。実際、別の2022年の研究(PLOS One誌)では、パーム油価格が1%下がると新規の大規模プランテーションが1.08%、森林の減少が0.68%それぞれ減るという関連が報告されている。
さらにインドネシア政府は2011年に原生林や泥炭地での新規開発区画の割り当てを禁じるモラトリアムを導入し、2016年には炭素を多く含む深い泥炭地の伐採を全国的に禁止、2018年から2021年には新規のパーム油プランテーション許可のモラトリアムも実施した。こうした政策が、誓約の有無にかかわらず森林の多い地域での新規開発を抑えた可能性があると研究チームは指摘する。ただし、これらのモラトリアムには抜け穴や監視の不十分さが指摘されており、対照地域と比べて実際にどこまで森林の減少を抑えたのか疑問視する研究もあるという。
日本にとっての意味
日本はパーム油を食用油や洗剤、加工食品の原料として大量に輸入しているとされ、パーム核殻(PKS、palm kernel shell)と呼ばれるパーム油生産の副産物由来の燃料は、固定価格買取制度(FIT)のもとでバイオマス発電にも使われているとされる。日本の消費者や企業がパーム油由来の製品を「持続可能」と判断する根拠の一つには、企業が掲げる森林破壊ゼロ誓約や、それに関連する認証制度への信頼があるとみられる。
今回の研究そのものはRSPO(Roundtable on Sustainable Palm Oil、持続可能なパーム油のための円卓会議)などの認証制度を直接検証したものではないが、企業の誓約が守られていても、業界全体の趨勢を超えた追加の森林保護効果を統計的に示せなかったという結果は、誓約や認証が「森林を守っている」と単純に言い切れるのかという問いを投げかけるものと言える。
日本企業や消費者がパーム油の持続可能性をどう評価するかを考える際、誓約の有無だけでなく、価格動向や政府の土地利用規制といった、より大きな要因が森林破壊の増減に影響している可能性を踏まえておく必要があるだろう。