設計大手事務所、AI活用実態を建築誌が独自調査
世界の著名な建築設計事務所が、デザイン案の生成からプロジェクトの分析・報告書作成まで、幅広い業務でAIを取り入れていることが、デザイン誌Dezeenの独自調査で分かった。世界の大手26事務所が自社のAI活用について回答し、うち25事務所は使うだけでなく所員に活用を奨励していた。一方、取材を申し込んだうち27事務所は回答を断るか返答しなかった。8月25日付で掲載された。
何が起きたのか
回答したのは、米SOM、英フォスター・アンド・パートナーズ(Foster + Partners)、英ザハ・ハディド・アーキテクツ(ZHA)、英ヘザウィック・スタジオ、米HOK、オランダ・ロッテルダムのOMA、インドのモーフォジェネシス(Morphogenesis)、ノルウェーのスノヘッタ(Snøhetta)、中国のMADなど26事務所。バルセロナのボフィール・タジェール・デ・アルキテクトゥラ(Bofill Taller de Arquitectura)だけが、AIを積極的には使っていないと答えた唯一の事務所だったが、理由は説明しなかった。
MADのアソシエイトパートナー、ティファニー・ダーレン氏は「この2年でAIの計算能力と洗練度は指数関数的に伸びた」とし、「AIが今日の大きな技術転換であることは明らかだ。手描き製図からCAD、Revitへの移行と同じで、使いこなし方を学ばなければ取り残される」と語った。
使われているAIツールの中で明確な人気を集めたのは、米アンソロピック(Anthropic)の大規模言語モデル「Claude.ai」で、回答した事務所の44%が使用していた。グーグルのGemini(ジェミニ)は8事務所、マイクロソフトのCopilotとChatGPTはそれぞれ24%の事務所が使っていた。画像生成ではGeminiのNano Bananaが最も人気で25事務所中7社が使用し、Stable DiffusionとxFiguraもそれぞれ12%の事務所が挙げた。また、個別化とデータプライバシーを理由に、フォスター・アンド・パートナーズ、ヘザウィック・スタジオ、OMA、ゲンスラー(Gensler)など、AIを使う事務所の半数以上が自社内製のAIシステムを構築していた。
背景
活用が広がる一方で、AIの利用方針を定めていると答えたのは19事務所にとどまり、MADを含む6事務所は活用を奨励しながら方針を持っていなかった。方針を整備した事務所はデータの扱いを最大の関心事に挙げており、ZHAのニルス・フィッシャー、シャジェイ・ブーシャン両ディレクターは「機会とリスク、特にデータの取り扱いについて明確な指針を示しつつ、実験の余地を残す」と説明。英ホーキンス・ブラウン(Hawkins Brown)のアラステア・ロバーツ最高執行責任者(COO)は「AIは有用なインプットを生み出すが、顧客に納品するものへの責任は、資格を持つ人間の専門家である私たちにある」と強調した。
用途として目立つのは、繰り返しの多い事務作業や検証作業の肩代わりだ。OMAのマネージングパートナー、ダーフィット・ヒアノッテン氏は「建築実務に占める検証作業の割合が増え続けている。ロジスティクス的で反復的で時間を食い、デザイン思考からエネルギーを奪う仕事だ」とし、AIへの委譲によって「建築家は観察と批判的思考、アイデアの形成にもっと集中できる」と述べた。設計初期段階での活用も8事務所が挙げ、スウェーデンのホワイト・アーキテクター(White Arkitekter)は生成AIによる初期案の可視化で顧客との対話が速くなったとする。レンダリング(完成予想図)制作は従来外部の専門スタジオに委託されてきたが、AIで内製化が進み、デンマークのCFモラー(CF Møller)は生成AIの結果、画像編集ソフトPhotoshopの使用が8割減ったと見積もる。一方でCFモラーは「実際に効果がある場合にだけ使う。そうでなければ高くつくし、データセンターの環境負荷も考える必要がある」と慎重な姿勢も示した。
各事務所が共通して強調したのは、人間の創造性はまだAIに置き換えられないという点だ。ヒアノッテン氏は「創造的な実務としては、AIは創造的な仕事を置き換えるのではなく高めるべきものだと考えている」と語り、ホワイト・アーキテクターのペーテル・レウコビウス氏は「AIが人間の創造性に取って代わることはない。ただ、正しく扱えば間違いなく増幅してくれる」と話した。
日本にとっての意味
世界の大手設計事務所の大半がAI活用を組織として奨励し、半数以上が内製システムまで構築しているという実態は、日本の設計業界にとって現在地を測る物差しになる。日本でも日建設計が2026年からの経営計画でAIとの「共創」を掲げるなど、大手を中心に取り組みは始まっており、世界の潮流と方向は重なる。
一方でDezeenの調査は、活用を奨励する事務所の中にも利用方針を整備していないところがあるという偏りも明らかにした。データの機密性、成果物の正確性、そして最終責任は資格を持つ人間にあるという原則をどう明文化するかは、建築士が設計責任を負う日本の実務でもそのまま問われる論点であり、方針づくりの参考になる調査といえる。