接種者は心筋炎少なく、米国400万人調査で感染時と比較
米国の研究チームが、16〜25歳の若者約410万人分の電子カルテを分析し、ファイザー・ビオンテック製の新型コロナワクチンを接種した人と、接種せずに感染した人とで、心筋炎や心膜炎、死亡の記録の頻度を比べた。結果は、未接種で感染した集団のほうが、接種した集団よりもこれらの記録が多かったというものだった。論文は医学誌『Vaccine』に掲載され、CIDRAP(米国の感染症専門メディア)が現地時間8月25日に伝えた。
何が起きたのか
SUNY Upstate Medical Universityの研究者らが中心となった研究チームは、2020年12月1日から2025年9月30日までの間に複数の医療機関にまたがる電子カルテを持つ16〜25歳の約410万人を対象に、過去にさかのぼって記録を調べた。対象者はワクチン接種歴と感染歴の組み合わせによって4つの集団に分けられた。ワクチンも感染歴もない集団が約360万人(87.7%)、未接種で感染した集団が24万8546人(6.1%)、接種はしたが感染歴のない集団が24万1152人(5.9%)、感染後に接種したいわゆる「ハイブリッド免疫」の集団が1万677人(0.3%)だった。
このうち、未接種で感染した集団は、死亡、心膜炎(心臓を包む膜の炎症)、心筋炎(心臓の筋肉が炎症を起こす病気)のいずれについても、4集団の中で最も記録の頻度が高かった。逆に、ワクチンを接種していて感染歴のない集団は、これら3つの項目すべてで最も頻度が低かった。研究チームは、電子カルテに基づく比較であり、心筋炎自体はどちらの経路でもまれな出来事だったと断ったうえで、「記録された心筋炎、心膜炎、全体の死亡は、BNT162b2ワクチンの接種後よりも、新型コロナウイルス感染後のほうが一貫して多かった」と論文に記した。
背景
mRNAワクチンをめぐっては、接種後にまれに心筋炎が報告された経緯があり、これが子を持つ親の間で接種をためらう理由の一つになってきたとされる。今回の研究の著者らも、公衆の議論がこれまで接種に伴う心臓への影響だけに焦点を当ててきたと指摘し、感染した場合のリスクと同じ医療ネットワークの中で比べることで、議論の枠組みを広げようとしたと説明している。
ただし、この研究はあくまで観察研究であり、電子カルテに残った記録同士を比較したものである点には注意が必要だ。接種していて感染歴のない集団が最もリスクが低かったという結果は、ワクチンの効果だけでなく、そもそも感染そのものを経験していないという集団の性質も関わっている可能性がある。研究チームが示したのは、4つの集団のあいだでの記録の多さの順位であり、リスクが何倍になるかといった具体的な倍率は、今回参照した報道の範囲では示されていない。それでも著者らは、「心筋炎の絶対的なリスクは低いが、感染後のほうが接種後より高く観察された」として、まれではあるが実在する事象として接種後の心筋炎を認めつつ、感染そのものが心臓により大きなリスクをもたらすことを併せて伝えるべきだと述べている。
日本にとっての意味
日本でも、新型コロナワクチン接種後の心筋炎は、若い世代を中心に副反応疑いとして報告されており、厚生労働省は2021年12月、mRNAワクチンの添付文書の「重大な副反応」の項に心筋炎と心膜炎を追記するよう指示している。特に対象となった16〜25歳という年齢層は、日本でいえば高校生から大学生、社会に出たばかりの世代に重なり、子を持つ保護者にとっても身近な年齢帯である。ワクチン接種の国内の予防接種制度上の位置づけは時期によって変わってきたとみられ、現在の対象年齢や費用負担の扱いについては、読者それぞれが最新の制度を確認する必要がある。
今回の研究そのものは米国の医療記録に基づくものであり、日本人集団での確認ではない点は踏まえておく必要がある。それでも、未接種で感染した場合と、接種した場合とで心臓への影響の記録を直接比べたという設計は、これまで接種後のリスクだけが単独で語られがちだった議論に対して、感染した場合のリスクとあわせて考える視点を提供するものであり、接種を迷う人にとっての判断材料の一つになり得る。