アマゾンの森に研究拠点、地元建築事務所が米大学と建設
エクアドルの建築事務所カア・ポラ・アルキテクトゥラ(Caá Porá Arquitectura)が、地域住民と協力して、アマゾン熱帯雨林の中に研究用パビリオンを建設した。場所はエクアドルのパクト・スマコで、研究者が森の景観を新しい視点から観察できる施設だという。デザイン誌Dezeenが8月26日付で紹介した。
何が起きたのか
施設の名称は「ワイルドスマコ・リサーチ・パビリオン(WildSumaco Research Pavilion)」。米国のフランシス・マリオン大学が、この地で20年以上続けてきた研究活動を拡大するために発注した。設計を担ったのは首都キトに拠点を置くカア・ポラで、研究室と教室からなるこの建物は、研究と教育の場となるより大きなキャンパス構想の第1期にあたる。
パビリオンは2025年に完成し、大学はこれを使った集中講座を始めた。学生が地元の家族とともに学び、地元のナチュラリストガイドから生物学者やコミュニティパークレンジャーになるための訓練を受ける仕組みだ。設計チームのガブリエル・モイヤー=ペレス氏とパウラ・イスリエタ氏はDezeenに「この研究室を、森の中に生きる学びの場として構想した。樹冠を通して変わっていく光と、周囲の生息環境の音が、建物の体験を形づくる」と語った。
建設は、従来型の工事現場ではなく、多くの協働が交わるワークショップとして構想された。地域の住民は設計チームに森のことや材料の下ごしらえの技術を教え、生物学者は研究室に必要な温湿度管理の戦略を提供し、建築家は接合のシステムと空間の使い方で貢献した。技術者1人につき15人以上の地元アシスタントが雇われて組になり、彼ら自身もやがて教える側になっていったという。
背景
パビリオンが建つのは、アンデスの斜面が高地アマゾンと出会うスマコ火山の麓で、エクアドルでも有数の生物多様性を誇る地域にあたる。周囲の森は単なる背景ではない。事務所は「ここで建てるということは、押し付ける前に耳を傾けることを求められる。文脈全体を、障害ではなく出発点として受け止めるということだ」とし、「敷地に注意深く触れる建築であり、一本一本の支柱が、建物自体よりはるかに広い関係の網の目を変えてしまうことを自覚している」と説明する。
2層のパビリオンは森の中の空き地に立ち、床を地面から持ち上げてある。地形はそのまま生き続け、水は循環し、植生は建物の周囲で育ち続ける。下の階には研究・分析のためのスペースが入り、上の階は教室と、床から天井までのガラスと鳥に安全な保護を施したメッシュの囲いを備えた鳥類観察室になっている。設計チームは「2階が樹冠の高さへと立ち上がることで、鳥類観察室は森への新しい視点を開き、林床近くの層と梢との関係の変化そのものが学びの体験の一部になる」と話す。屋根は左右非対称のバタフライ型の勾配で、森の不規則さを映しながら雨水を集める。
材料は地域で調達され、グアドゥア(Guadua、中南米の大型の竹)、構造用木材、植物繊維、石が使われた。技術面・文化面・環境面の価値から選ばれたという。事務所は「バハレケ(bahareque、竹の骨組みに土を塗り込める中南米の伝統的な壁工法)の壁に使った土はすべて、カブヤ(cabuya)繊維や、グアドゥアの上に塗る石灰とあわせて、バイオダイジェスター(有機物からガスを作る装置)と基礎のために行った同じ掘削から出たものだ。その結果、環境負荷が低く断熱性能の高い外皮ができた」と述べる。構造材と編まれたバハレケの一部はあえて露出させたままにしてあり、建物の作り自体が教材になるようにした。発注者は同大学のFMU教育財団で、「素材の生の手触りと研究室水準の仕上げを組み合わせ、学生と研究者と地域社会を、生態系を損なうことなく森と密接に触れ合わせるパビリオンをつくった」としている。
日本にとっての意味
海外の熱帯林に長期の研究拠点を築き、林冠へのアクセスを建築で解決するという手法は、日本の研究者にもなじみ深い。京都大学などの研究チームは1990年代からマレーシア・サラワク州のランビル国立公園で長期の生態観測を続けており、林冠を観察するためのツリータワーやウォークウェー、クレーンといった施設を設けて、樹上の昆虫や開花の研究で世界的な成果を挙げてきた。樹冠の高さに観察空間を持ち上げるという今回のパビリオンの発想は、これと同じ系譜にある。
一方で今回の事例が際立つのは、施設の建設そのものを地域住民との学び合いの場に変えた点だ。地元の材料と伝統工法を使い、住民が教える側に回る建設のあり方は、研究施設が地域に何を残せるかという問いへの一つの答えであり、海外にフィールドを持つ日本の大学や研究機関にとっても参考になる。