米バーモント州、観光ブランドのロゴを刷新 DNCOが手がける
米バーモント州の観光ロゴが一新された。うねる丘と蛇行する川を文字の形に写し取ったデザインで、クリエイティブエージェンシーのDNCOが州全体のリブランディングの一環として手がけた。
何が起きたのか
バーモント州観光マーケティング局はDNCOに対し、消費者向けの専用観光ブランドの構築を依頼した。同州はニューイングランド地方でメイン州やマサチューセッツ州の陰に隠れがちで、その存在感を立て直し高めることが狙いだ。
DNCOはブランドの土台として「State of Inspiration(インスピレーションの州)」というタグラインを掲げた。「State」に「州」と「状態」の意味を重ね、バーモントの自然の美しさと創造的な活力の両方を指すという。「State of Inspirationという考え方は、バーモントが人々に与えてくれるものを捉えている」と、DNCO北米のマネージングディレクター、ルイス・メンドーサ(Luis Mendoza)氏はDezeenに語った。「それは新しい技能を身につけることかもしれないし、思いがけない物語を聞くことかもしれない。単に世界の見え方が変わることかもしれない。このアイデンティティは、バーモントを訪れて美しい場所というだけでなく、何かを得て帰る場所として提示している」
新しいアイデンティティの要となるロゴは、州内の道端や店先、農産物直売所で見かける手描き看板をもとにした。従来のセリフ書体からの大きな転換だ。ワードマークは社内で開発し、レタリングアーティストのロブ・クラーク(Rob Clarke)氏が仕上げた。文字の形には州の地形が織り込まれており、「e」は曲がりくねった道を、「m」は丘の稜線をなぞり、「o」は山並みにかかる月を描いた州の行政ロゴを反響させている。
背景
ブランドアイデンティティは単一の書体を太さ違いで使い分け、さまざまな場面に対応する。自然環境を映した配色は、バーモントの風景と同じように季節ごとに変化する。DNCOは地元イラストレーターのアリッサ・マッケイブ(Alyssa McCabe)氏と組んで独自アイコンのライブラリーも開発し、食、風景、文化、土地の言い伝えといったバーモント固有の題材を盛り込んだ。
メンドーサ氏は、この「温かく遊び心のある」ブランディングが、州の馴染み深い魅力だけでなく、訪問者が出会う思いがけない体験も呼び起こすことを期待している。「紛れもなくバーモントだと感じられるアイデンティティにしたかった。州の自然の美しさと変わらぬ魅力に根ざしながら、創造性と可能性に満ちたものに」と同氏は言う。「そこには州の人々と文化を映す手作りの質感があり、同時に現代的と感じられるだけの活力と柔軟さを併せ持っている」
「State of Inspiration」の構想は2026年バーモント観光サミットで発表された。DNCOはブランドガイドラインと導入ワークショップも用意し、観光ウェブサイトの刷新を含む州のマーケティング資材への展開を支援している。「人々がバーモントを、絵のように美しい逃避先や季節限定の旅行先以上の存在として見てくれることを願っている。発見と創造性と新しい体験の場所であり、ものの見方を変え、リフレッシュして着想を得た状態で家路につかせてくれる場所だ」とメンドーサ氏は語った。
DNCOは2006年にベン・デール(Ben Dale)氏とジョイ・ナザーリ(Joy Nazzari)氏が設立し、当初は「dn&co」の名で知られた。現在はニューヨークとロンドンに拠点を置き、ニューヨークのダンボ地区、ロンドンのセント・ジェームズ地区、上海のウェストバンド・セントラルなど、世界各地の「場所」のブランドづくりを専門とする。
日本にとっての意味
都道府県が観光プロモーションにロゴやキャッチコピーを使う手法は日本でも一般的だが、バーモント州の事例はその一歩先を行く。単発のロゴ制作ではなく、タグラインを軸にした「ブランドプラットフォーム」を設計し、書体、季節で変わる配色、地元イラストレーターによるアイコン群、導入ワークショップまでを一式で整えた。行政の観光マーケティングを、企業のブランド構築と同じ水準で組み立てた点が特徴だ。
日本の観光政策については、デスティネーション(目的地)としてのブランド構築を十分に行わないまま、プロモーション施策に重点を置いて着手してきたという指摘が研究者から出ている。手描き看板という土地の日常風景をロゴの根拠に据え、「訪れて何かを得て帰る場所」という価値の定義から始めたバーモントの進め方は、知名度の高い近隣県との差別化に悩む日本の自治体やDMO(観光地域づくり法人)にとって、順序の面で参考になる事例といえる。