A24、ニューヨーク最古のオフブロードウェイ劇場を改装完了
映画制作会社A24が、ニューヨーク最古のオフブロードウェイ劇場チェリーレーン・シアターの改装を終えた。設計はニューヨークの建築事務所レロイ・ストリート・スタジオ(Leroy Street Studio)。A24にとって初の実店舗拠点で、演劇の上演と映画の上映の両方に対応する劇場として生まれ変わった。
何が起きたのか
A24は2023年にチェリーレーン・シアターを購入し、劇場としての役割と名前を残す方針を示していた。今回、レロイ・ストリート・スタジオと、レストラン経営者のゼブ・スチュワート氏とともに、メインシアターの改修と内装全体の刷新を終えた。同スタジオは設計と施工を一体で担う「デザインビルド」方式で参加した。あわせて、人気ビストロ「フレンチェット」を手がけたチームが運営する、スピークイージー(隠れ家酒場)風のレストラン「ワイルド・チェリー」も館内に加わった。内装はスチュワート氏によるものだ。
改修の柱は、メインステージを演劇と映画の兼用劇場に作り替えたことだ。舞台上部の天蓋から、スピーカーを備えた大型のスクリーン装置が降りてくる仕組みを新たに設けた。客席まわりでは、もとのレンガ壁を露出させ、座席を苔のような深緑色のバンケットシートに入れ替えた。演劇と映画では求められる音響条件が大きく異なるため、映画上映の際には壁沿いにカーテンを引き、演劇のときは開けておく。上演内容の切り替えが多い劇場のため、転換は必要なら1日以内にできるという。
このほか、通りからロビーの売店へと連続する切符売り場を新設し、深い青のタイルで統一した。狭いロビーは片側にレンガの露出壁と手洗い、反対側にワイルド・チェリーの入り口があり、レストランへの入り口は深紅のカーテンの裏に隠されている。
背景
チェリーレーン・シアターは、ウェストビレッジのコマース通りの急なカーブに沿って立つ2棟のレンガ建物をつないだ劇場だ。建物は1830年代にさかのぼり、当初は製造業に使われ、1924年に劇場になった。高い方の棟はかつて穀物サイロとして使われていたこともある。
レロイ・ストリート・スタジオは今回の改修で、過去に重ねられた改装の層を整理しながら、建物の歴史に敬意を払うことを重視した。劇場のシンボルである真っ赤な扉は、当初の塗装を手がけた塗装職人とともに色を合わせて塗り直した。「私たちが来たときには、2000年代初頭の改装がそのまま残っていた。それを剥がして、もともとの特徴を生かし、その上に何を重ねるかに慎重でありたかった」と、同スタジオのインテリア担当シニアアソシエイト、レスリー・ベイリー氏はDezeenに語った。シニアアソシエイトのアレックス・ウィトコ氏も「私たちの仕事の多くは、剥がしていくことだった」と話す。
レストランの空間はかつて小劇場だった部屋で、上の階には住宅がある。「昔ここがブラックボックス劇場だったころは、公演のたびに上の住人全員に電話して静かにしてもらっていた。仕切りが何もなかった」とウィトコ氏。改修では、低い波形の天井を新設し、その上にさらに2層の天井を重ねる「箱の中の箱」の構造で、レストランの音が住戸へ伝わらないようにした。天井の下では、スチュワート氏とともに「テクスチャーの上にテクスチャーを重ねる」内装を作り、一風変わったメニューに合わせた空間に仕上げている。
チェリーレーン・シアターとワイルド・チェリーは2025年に開業し、演劇「Weer」の上演などを通じて徐々にプログラムを広げている。映像配信や映画の会社が実際の劇場に投資する動きは他にもあり、アマゾンもライブパフォーマンス施設への投資を進めている。
日本にとっての意味
映画会社が劇場という実空間を持つこと自体は、日本では長い伝統がある。東宝は帝国劇場を、松竹は歌舞伎座を運営し、映画と舞台興行を一体で手がけてきた。その帝国劇場は2025年2月末に休館し、建築家の小堀哲夫氏の設計で29階建てビルの中に新劇場を設ける建て替えが進んでおり、2030年度の竣工を目指している。日本の劇場更新が超高層ビルへの建て替えという形を取りがちなのに対し、A24の事例は、100年前の小さな劇場建築をあえてそのまま残し、過去の改装を剥がして原型に近づけるという逆方向の選択だ。
配信全盛の時代に映画会社が客と直接会う場所を持とうとする動きとしても興味深い。A24は映画館チェーンを買うのではなく、客席数の少ない歴史ある劇場を選び、演劇と上映を1日で切り替えられる柔軟な小屋に作り替えた。興行の大型化とは別の道として、小規模な実空間に投資する選択肢があることを示す事例といえる。