米、エジプト大手銀のUAE支店をドル網から遮断へ イラン制裁を強化
米財務省は現地時間8月28日、エジプトの大手銀行バンク・ミスルのアラブ首長国連邦(UAE)支店を、米国の金融システムから遮断する方針を明らかにした。イラン政権への支援を続けているとの理由からで、措置は約1カ月のパブリックコメント期間を経て発効する見通しだ。エジプト中央銀行は対象がUAE支店のドル建て取引に限られ、エジプト国内の銀行部門には及ばないと説明している。
何が起きたのか
米財務省は、バンク・ミスルのUAE支店が米国の金融システムを使えなくなる措置を発表した。ベッセント財務長官は、この銀行について「イラン政権への継続的かつ悪質な支援」を理由に挙げ、対イラン政策全体を「経済的窒息」と表現している。措置は発表後すぐに実施されるわけではなく、1カ月間の公告・意見募集の手続きを経てから発効する。
エジプト中央銀行は米側と協議中だとしたうえで、今回の措置はバンク・ミスルのUAE支店が米ドルでコルレス銀行(correspondent bank、国際送金の仲介を担う海外の取引銀行)と行う取引に限定され、エジプトの他の銀行には影響しないと強調した。
ベッセント氏はこのほか、トランプ大統領が各国首脳に対イラン交流の停止を直接働きかけていることも明らかにし、現地時間8月31日から9月1日にノースカロライナ州アシュビルで開かれるG20財務相会合でも同様の要請をする予定だという。
背景
今回の措置の背景には、今年2月末以降に米国とイスラエルがイランを攻撃し、イランが報復としてホルムズ海峡の通航をほぼ遮断した経緯がある。ホルムズ海峡は世界の原油輸送における重要な航路で、その混乱は原油価格の急騰を招いた。米国はこの衝突後、イランの資金源を断つことを対イラン政策の柱に据えており、ベッセント氏はこれを「経済版のDデー」と呼んで、対イラン制裁に加わらない国への厳しい対応を警告している。
米国の制裁には、イランの銀行や企業を直接対象にするものだけでなく、イランと取引する第三国の銀行や企業を標的にする「二次制裁」と呼ばれる手法がある。今回のバンク・ミスルへの措置もこの一種で、イラン本国ではなく、イランと関係を持つとみなされた海外の銀行の米ドル取引を止めることで圧力をかける仕組みだ。米ドルは国際決済の基軸通貨であり、多くの国際取引がドルで行われる以上、米国の金融システムから切り離されることは、その銀行が国際的な貿易金融からほぼ排除されることを意味する。
米国がより大きな標的、例えばイラン産原油の大口輸入国である中国の金融機関に同様の措置を取ることには慎重にならざるを得ないとの指摘もある。中国への制裁は世界経済への影響が大きく、9月に見込まれる習近平国家主席の訪米を控え、米中関係を損ないかねないためだ。
日本にとっての意味
今回の対象はエジプトの銀行の中東拠点という限定的な事例だが、その仕組み自体は、中東で事業を行う日本企業にとって無関係ではない。二次制裁は、当事国の企業や金融機関を直接狙うのではなく、取引相手となった第三国の銀行のドル決済網へのアクセスを断つ形で及ぶため、イランやその関係先と何らかの取引がある企業は、たとえ制裁の直接対象でなくても、取引銀行がドル決済を止められれば実務上の影響を受けかねない。日本企業は中東で資源調達やインフラ事業を通じてUAEやエジプトの銀行と取引する場面があり、こうした銀行が米国の制裁対象になれば、送金や決済に支障が出る可能性がある。
また、ホルムズ海峡は日本が輸入する原油の多くが通過する航路とされ、今回の措置の背景にある米イラン間の緊張が続けば、原油価格や航行の安全といった形で日本のエネルギー調達にも波及しうる。個別の銀行への措置という一見小さなニュースの裏に、ドル決済網を介した制裁の広がりという構造があることを知っておく価値がある。