感染症・健康

ファウチ氏、上院公聴会で証言拒否 議会侮辱罪追及の動きへ

米国 の記事一覧 ・ 南北アメリカ

米上院国土安全保障・政府活動委員会の公聴会で、新型コロナウイルス対応を主導した元米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)所長のアンソニー・ファウチ氏が、コロナの起源をめぐる質問への回答を拒否した。委員長のランド・ポール上院議員(共和党)は、ファウチ氏を議会侮辱罪に問う手続きを進める考えを記者団に示した。

何が起きたのか

現地時間7月29日に開かれたこの公聴会で、ファウチ氏はコロナの起源を隠そうとしたとの追及に対し、合衆国憲法修正第5条(自己に不利な証言を拒む権利)を繰り返し行使して答弁を拒んだ。ポール議員はこの対応を受けて、委員会で議会侮辱罪の可否を問う採決を翌週行うと表明した。共和党側の一部委員は、ファウチ氏が前大統領ジョー・バイデン氏から刑事訴追を免れる恩赦(pardon)を事前に受けていることを根拠に、そもそも修正第5条を使う資格がなかったと主張している。ポール議員は「刑事責任からの免責がある以上、修正第5条の陰に隠れる必要はなかったはずだ。恩赦がある場合に修正第5条が適用されるかどうかは法律上の論点で、司法省が取り上げるかどうかという問題も別にある」と述べた。ファウチ氏は公聴会で議会による監視の必要性は認めつつ、ポール議員が自分の訴追を求め続けていることに不満を示した。

ポール議員はかねて、ファウチ氏が中国・武漢での機能獲得研究を支持し、その研究から新型コロナウイルスが偶発的に流出した可能性を隠そうとしたと主張し、刑事訴追を求めてきた。ファウチ氏はこれを否定している。研究所からの流出を裏付ける決定的な証拠はまだ見つかっていないが、トランプ政権は現在、米国立衛生研究所(NIH)が資金提供していた研究施設でウイルスが作られたことを示す証拠があるとの立場を取っている。ファウチ氏自身も、研究所流出の可能性を完全には否定できないとしてきた。

背景

ファウチ氏は、トランプ政権1期目とバイデン政権を通じて米国のコロナ対応の陣頭指揮を執った人物で、マスク着用やワクチン接種の呼びかけなど公衆衛生対策の顔として知られる一方、対応の是非をめぐって米国内で強い政治的対立の的になってきた。バイデン氏は退任前に、ファウチ氏へ予防的な恩赦を与えており、これは将来の訴追を防ぐ狙いだったとみられる。ただ、恩赦は刑事責任からの免責であって、議会証言を拒む権利そのものを失わせるかどうかは法解釈上の論点が残る。ポール議員側の主張はここを突いたものだが、実際に修正第5条の適用可否や司法省の対応が定まるかは今後の推移次第で、現時点では確定していない。

現地時間7月30日には、米上院保健委員会がトランプ政権による米疾病対策センター(CDC)長官候補エリカ・シュワルツ氏と、パンデミック対応組織ASPR(戦略的準備対応局)長官候補ショーン・カウフマン氏の指名を、委員会採決で承認した。カウフマン氏は過去にワクチンを批判した発言があり、委員長のビル・キャシディ上院議員(共和党)は当初これを問題視したが、保健福祉省(HHS)側からワクチン政策には関与させないとの確約を得たとして賛成に回った。キャシディ氏は今年5月の予備選で敗れ、来年で上院を去る予定の議員で、これまでもワクチン政策への懸念を抱えながらHHS長官ロバート・ケネディ・ジュニア氏の就任に賛成票を投じたことで批判を受けてきた。

日本にとっての意味

ファウチ氏への追及や、ワクチンに慎重な立場を取ってきた人物の要職起用は、米国内の議事手続きだが、その積み重ねは軽視できない。日本の感染症対策や新型コロナワクチンの接種方針は、CDCやNIHといった米当局の研究・審査結果を参照する場面が少なくない。米国内でパンデミック対応の検証をめぐる政治対立が続き、ワクチン政策に慎重な人物が要職に就く流れが強まれば、今後米当局から発信される知見や勧告の性格が変わっていく可能性がある。加えて、コロナの起源をめぐる公式見解が政権によって変わりうるという状況は、将来同種の感染症危機が起きた際に、各国が米国の情報をどう受け止めるべきかという判断にも影響しうる。日本の読者にとっては、直接の制度変更がなくとも、参照先である米国の科学的助言の土台が政治情勢に左右されやすくなっている、という点を知っておく価値がある。