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海運の脱炭素枠組み、9月にロンドンで再協議 米・サウジは緩和案支持へ

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国際海事機関(IMO)で、海運業界の温室効果ガス排出を減らす新しい枠組みをめぐる交渉が、現地時間の9月1日からロンドンで再開される見通しだ。米国とサウジアラビアなどの産油国は、いったん各国が暫定合意した「ネットゼロ・フレームワーク(Net-Zero Framework、NZF)」を骨抜きにしようとしており、代わりにリベリアが出した緩やかな対案を後押しするとみられる。11月末からの最終協議に向け、各国の綱引きが激しくなっている。

何が起きたのか

IMO本部のあるロンドンで、現地時間の9月1日から非公開の政府間協議が始まる見通しだ。これは4月末から5月初めに一度、表立った動きの少ない協議が開かれた後に追加で予定された協議のうち最初のもので、11月末からの公開の最終協議につながる。

今回、各国が検討するのは5件の提案で、主なものは次の4つだ。1つは太平洋の島国ツバルが出したもので、NZFが一定量を超えた排出分にだけ課金する仕組みなのに対し、船の排出量全体に課金する、最も野心的な案だ。もう1つは英国・オーストラリア・カナダ・南アフリカが共同で提出した、現行のNZFをそのまま採択するよう求める提案。3つ目はブラジルによるもので、短期の目標達成を緩め、長期の目標を厳しくする修正案。

そして4つ目が、米国とサウジアラビアが支持するとみられるリベリアの提案で、排出削減の目標値そのものを引き下げ、目標未達の船会社に科す手数料の仕組みを排出量取引制度に置き換える内容だ。手数料の代わりに排出量取引を導入すると、NZFで予定されていた「ネットゼロ基金」への資金拠出がなくなり、クリーン燃料への転換を後押しする原資が乏しくなる。

海運や海洋工学の専門家でつくる団体IMarEST(Institute of Marine Engineering, Science and Technology)の分析によると、5件のうちツバル案だけが、各国が2023年に合意した2030年・2040年の削減目標を満たす。リベリア案は2050年までの削減幅がせいぜい半分にとどまり、目標に遠く及ばないという。ブラジル案も、一見すると穏健な妥協案だが、累積の排出量ではNZF案・ツバル案のどちらよりも多くなるとIMarESTは試算している。

背景

海運は世界の温室効果ガス排出の3%を占めるとされ、船の多くは質の低い重油を燃料に使っている。各国は2023年、国際海運の排出量を2008年比で2030年までに20%、2040年までに70%削減し、2050年ごろにネットゼロを達成するという目標をIMOの場で合意した。この目標を実現する具体策として、船会社に排出削減目標を課し、達成すれば報奨金、未達なら手数料を科す「ネットゼロ・フレームワーク」が2025年4月の政府間協議で提案され、63対16の賛成多数で暫定的に採択された。この採決に先立ち、トランプ政権下の米国代表団は協議から離脱している。太平洋の島国6カ国は、もともと排出量全体への課金を求めていたため、この時点では採決を棄権していた。

ところが2025年10月、トランプ大統領自らの介入と、関係国への制裁や査証制限の警告を経て、米国はNZFの正式採択を1年延期するよう多数の国を説得することに成功した。バヌアツの気候担当相ラルフ・レゲンバヌ氏は、この延期について「容認できない」と述べている。この延期を受け、太平洋の島国側はむしろ交渉のやり直しを機に、より野心的な内容を求める方針に転じた。

IMOは加盟国政府が交渉し、必要なら採決で決める国連の専門機関で、各国が国内で掲げる気候目標とは別枠で、国際海運という一つの産業全体の排出削減を協議する珍しい場だといえる。またリベリアは、自国の船籍を米国拠点の会社を通じて外国船に貸し出す仕組みで年間数百万ドル規模の登録料収入を得ているとされ、今回の緩和案をめぐっては、制度の恩恵を受ける側が主導する構図になっている。

日本にとっての意味

日本は日本郵船・商船三井・川崎汽船といった大手海運会社を抱える世界有数の海運国で、原油や液化天然ガス、穀物、鉄鉱石など輸入の大半を海上輸送に頼っている。NZFのように排出量に応じて手数料を課す仕組みが強く働けば、燃料転換のコストが運賃に上乗せされ、いずれ輸入物価に跳ね返る可能性がある。

逆に今回の協議でリベリア案のように枠組みが骨抜きになれば、当面の運賃上昇は抑えられる一方、アンモニアや水素、メタノールといった代替燃料への投資を進めてきたとされる造船・海運業界にとっては、需要の裏付けが弱まりかねない。

日本企業の船舶にも、便宜置籍によってパナマやリベリアなど他国籍を掲げているものが少なくないとされ、リベリアのような登録国側の思惑が、日本の海運会社の実質的な事業環境を左右する構図もある。11月末からの最終協議でどの案が採択されるかは、日本の海運会社の投資判断や、輸入品の価格動向にも関わる話として注視する価値がある。