アフリカ勢が退席、干ばつ対策の国際協定交渉また決裂
国連の砂漠化対処条約(UNCCD、UN Convention to Combat Desertification)の第17回締約国会議(COP17)がモンゴルの首都ウランバートルで開かれ、干ばつ対策の国際的な枠組みをめぐる交渉が決裂した。アフリカ諸国は法的拘束力のある「議定書(protocol)」の採択を求めたが合意に至らず、次回交渉は2年後のエジプトでの会議に持ち越されることになった。現地時間8月26日水曜には、アフリカ側の代表団が交渉室から一斉に退席する場面もあった。
何が起きたのか
アフリカ諸国は10年以上にわたり、干ばつのリスク管理を各国任せにせず、地域全体・世界全体で対応すべき課題と位置づける国連の議定書の採択を求めてきた。チュニジアの交渉官はアフリカ諸国グループを代表し、こうした議定書があれば、干ばつが起きてから対応する「後手」の姿勢から抜け出し、干ばつの被害や、それに伴う人々の移住といった影響に事前に備える体制に移行できると説明した。土地が慢性的に乾燥し、作物や家畜を育てられなくなると、人々は生活の糧を求めて土地を離れることが多い。
しかし、この動きは先進国の抵抗を受けてきた。先進国側は、法的拘束力が弱い「フレームワーク(framework、行動指針にとどまる枠組み)」の方が、より早く安く導入できると主張している。2024年にサウジアラビアで開かれた前回会議でも、交渉は日付をまたいで深夜まで続いたが合意できなかった。今回のモンゴル会議でも同様の対立が再燃し、現地時間8月26日水曜朝、アフリカ側の代表団が交渉室から一斉に退席した。会議を非公開で傍聴・記録する権限を持つ非政府組織IISDの報告によれば、この局面は交渉が「沸点」に達したことを示すものだったという。
昼の休憩を挟んでモンゴル側の議長団との会合の後、交渉は再開されたが、各国はウランバートルでは合意形成ができないことを確認するにとどまり、干ばつに関する新たな枠組みの議論を2028年に再開することで一致した。世界自然保護基金(WWF)で淡水政策を担当するクリスティン・コルビン氏は、ホンジュラスからイギリスのハンプシャー地方まで各地で干ばつが起きている現状を踏まえ、議定書であれフレームワークであれ具体的な対策が急がれているとしたうえで、「議定書をめぐる先送りによって、また2年間、問題が棚上げにされてしまう」と述べた。一方、会議を主催したモンゴルの担当大臣は閉幕の記者会見で、複数の対立点で合意に達したことを評価し、今回まとまらなかった議題は次回のエジプト開催のCOP18で扱うとした。
この会議ではほかにも、土地の劣化が女性に与える影響の測定や、市民社会・女性の関与拡大、UNCCDと国連の気候変動・生物多様性に関する条約との連携強化といった議題をめぐっても各国の意見が割れた。会議初日、トランプ政権下の米国代表は、これらの議題については前提そのものに反対であり、どれだけ交渉を重ねても合意には至らないとして議題からの削除を要求した。米国務省の担当者は後に、国連には本来の任務に立ち返り、重複業務を減らし、限られた資源の奪い合いを解消してほしいとし、ジェンダー関連を含む「社会的・政治的な課題」より、加盟国が国連に本来求めた具体的な業務を優先すべきだと説明した。これに対しEUとブラジルは会議初日から反発したが、モンゴル側の議長団はこれらの議題を除いた形で他の議題の採択を進めるよう各国に指示した。結局、これらの議題は交渉自体が行われないまま、最終日になって次回COP18の議題として据え置かれることになった。次のエジプト開催は2年後で、その時点でトランプ氏は大統領任期の最終年を迎えている見通しである。
背景
UNCCDは、砂漠化や土地の劣化、干ばつへの対応を国際的に調整する国連の条約で、気候変動に関する条約や生物多様性に関する条約と並ぶ「リオ条約」の一つに位置づけられる。ただし気候変動の条約と異なり、干ばつそのものを扱う法的拘束力のある取り決めはこれまで存在してこなかった。アフリカでは、サヘル地域をはじめ乾燥・半乾燥地帯が広く、干ばつが繰り返し発生してきた経緯があり、農業や牧畜への打撃、それに伴う人の移動が深刻な課題とされてきたとみられる。今回のような法的拘束力の有無をめぐる対立は、資金負担や実施義務の重さに直結するため、先進国と途上国の間で繰り返し起きてきた構図だと考えられる。
今回はこれに加え、トランプ政権下の米国が、ジェンダーや市民社会参加といった議題そのものを国連の「本来の役割」から外れるものとして拒否したことが、会議全体の停滞に拍車をかけた形になった。国連の会議運営は全会一致を原則とすることが多く、一国が明確に反対する議題は事実上棚上げにされやすいという構造上の弱点も、今回の決裂の背景にあるとみられる。
日本にとっての意味
干ばつ対策の国際枠組みが2年先送りになったという今回の決着は、世界の食料安全保障を考えるうえで無視できない意味を持つ。日本は穀物や大豆、飼料作物の多くを輸入に頼っており、産地で干ばつが起きれば不作や価格変動として跳ね返る。国際的な干ばつ対策の資金や体制づくりが遅れることは、そのリスクが今後も予測しにくいままになることを意味する。
また、今回の交渉決裂は、気候変動対策をめぐる国際交渉が、温暖化ガスの削減目標のような目立つ論点だけでなく、土地利用や干ばつ管理といった地味な分野でも各国の利害がぶつかり合い、しばしば行き詰まっていることを示している。こうした国連の専門的な会議の細部は報じられにくいが、次回のエジプト開催に向けてどのような合意が形成されるかは、将来の食料価格や国際的な農業支援のあり方を占ううえで注視する価値がある。