モンゴルでCOP17開幕、乾燥地拡大と牧畜民保護を協議
国連の砂漠化対処条約(UNCCD)の締約国会議「COP17」が、現地時間の8月17日にモンゴルの首都ウランバートルで開幕した。197の締約国が参加し、政府代表や科学者、報道関係者ら約1万人が集まり、地球温暖化に伴う土地の劣化や干ばつから、牧畜民とその放牧地をどう守るかを2週間にわたり話し合う。
何が起きたのか
COP17では、干ばつ対策のための新たな国際的な枠組みをどのような形にするかが最大の論点になる。前回2024年にサウジアラビアのリヤドで開かれたCOP16では、アフリカ諸国が「プロトコル(条約に法的拘束力を持たせる形の追加合意)」の形で干ばつ対策を各国に義務づけるよう強く主張した。これに対し、米国や欧州、アルゼンチンなどは、プロトコルの策定には時間と費用がかかりすぎ、現場での対策に回す資金が減ってしまうとして、法的拘束力の弱い「フレームワーク(指針や目標を示す緩やかな合意)」を望んだ。交渉は最終日の夜遅くまで続いたものの決着がつかず、結論はウランバートルへ持ち越された。
もう一つの主要テーマは、家畜を放牧する「レンジランド(放牧地)」と、そこで暮らす牧畜民の保護だ。レンジランドは森林や砂漠、農地、都市を除く地球の陸地のおよそ半分を占める。開催国モンゴルは放牧地と牧畜民をいずれも多く抱えており、国連に働きかけて2026年を「国際レンジランド・牧畜民年」に定めさせた経緯がある。COP17でこの分野を条約の中でより重視する決定を採択したい考えだ。あわせて、2028年のCOP18での採択を目指す2030年以降の新たな戦略枠組みについても議論が始まる。世界自然保護基金(WWF)などの環境団体は、生物多様性の保全や自然に配慮した食料システムをこの枠組みに強く盛り込むよう求めている。
背景
UNCCDは1992年のリオ地球サミットで、気候変動枠組条約、生物多様性条約とともに構想された「リオ三条約」の一つだ。気候変動条約のCOPが毎年開かれるのに対し、UNCCDのCOPは2年に一度しか開かれず、国際的な注目度も相対的に低い。
条約が対象とする「砂漠化」とは、土地が劣化して砂漠のような状態に近づき、作物の栽培や家畜の放牧が難しく、あるいは不可能になっていく現象を指す。国連の推計では、1980年代以降に砂漠化を経験した地域には5億人が暮らし、世界の陸地の5分の2が何らかの劣化を受けているとされる。気候変動による乾燥化に加え、過剰な灌漑による地下水の枯渇など人間の活動もこの劣化を加速させ、貧困や飢餓、健康被害、強制的な移住、生物種の減少といった問題を引き起こしているという。
土壌が乾いて植物が枯れると、地表がむき出しになり、風や水によって表土が流出する。表土を失った土地では植物が育ちにくくなり、砂漠化がさらに進むという悪循環に陥る。健全な土壌や植物に蓄えられていた炭素も放出されるため、砂漠化対策は気候変動への適応策であると同時に、温暖化そのものを抑える対策でもあるとされている。
こうした乾燥化は既に現実の危機として表れている。COP17を目前にした現地時間の8月12日には、英国の首相が通常は戦争やテロ、暴動、感染症の大流行時にしか招集されない政府の緊急会合「コブラ委員会」を、5月から続く猛暑と干ばつを理由に招集した。北半球の広い範囲で干ばつが進み、都市部の公園が乾いたサバンナのような状態になり、農作物の不作や食料価格の上昇、経済損失も生じているという。
日本にとっての意味
砂漠化対処条約の交渉は専門的な国際会議だが、内容は日本の暮らしと無縁ではない。日本は穀物や食肉、飼料などの多くを海外からの輸入に頼っており、乾燥地帯の農業生産や牧畜が長期的に縮小すれば、輸入価格や供給の安定性に影響が及ぶ可能性がある。世界の陸地の5分の2が劣化しているという規模は、特定の地域だけの問題ではなく、世界の食料供給網全体に関わる話だ。
また、日本自身もUNCCDの締約国であり、政府開発援助(ODA)を通じてアフリカやアジアの乾燥地における緑化や持続可能な農業の支援に関わってきたとされる。COP17で交渉が続くプロトコルかフレームワークかという制度設計の議論は、今後の日本の国際協力のあり方や資金拠出の規模にも波及しうる論点といえる。
加えて、放牧地の劣化は、牧畜で暮らす人々の生活の基盤そのものに関わる問題でもある。世界のどこか遠い場所の問題として片付けず、食料安全保障や国際協力の観点から注視する価値があるテーマだ。