太平洋島嶼国、COP31前に地域気候基金への拠出訴え
太平洋の18の国・地域が加盟する太平洋諸島フォーラム(PIF)が、パラオでの首脳級会合に合わせて、新しい地域気候基金「Pacific Resilience Facility(PRF、太平洋レジリエンス基金)」への資金拠出を各国に呼びかける見通しだ。燃料輸入コストの上昇や記録的な海洋高温という「海の危機」に直面する島嶼国は、再生可能エネルギーや地域の防災力強化、海洋保護への投資を、より早く現地コミュニティに届ける仕組みを求めている。
何が起きたのか
PIF加盟国の首脳らは、現地の8月30日からパラオで開かれる会合で、PRFへの拠出を世界各国に求める声明を出すとみられる。オーストラリアやニュージーランドもPIFの加盟国だ。PRFは今年5月に正式に発足した基金で、フィジーの外務担当補佐大臣レノラ・ケレケレタブア氏によれば、コミュニティの単位で住民に直接役立つことを目的とし、現地のプロジェクトに資金を素早く回す仕組みを目指す。同氏は記者団に対し、拠出を期待しており、資金は申請したコミュニティに渡ると述べたうえで、「既存の国際的な資金への申請より、はるかに簡単な仕組みにした」と説明した。
基金はこれまでに約1億7200万ドルの資金を集めており、うち約6700万ドルはオーストラリアからの拠出だ。年内に5億ドルの規模まで積み上げることを目指しており、近く最初の公募(プロジェクト提案の募集)を始める予定だという。資金は、防災・気候適応向けの枠と、教育やデータ分析、コミュニティの能力構築を含む社会的なレジリエンス向けの枠の2つに分けて配分される計画だ。
パラオでの会合は、フィジーとツバルが主催する「プレCOP」、そしてトルコが主催しオーストラリアが交渉議長を務めるCOP31に向けて、地域の優先課題を固める場になるとみられる。COP31では小島嶼国の気候資金ニーズを扱う専用セッションが設けられる見通しで、PRFへの拠出を後押しする狙いがある。
会合ではまた、海洋保護区の新設に向けた各国の目標や、2030年までに地球の陸と海の3割を保護するという国際目標に向けた表明も見込まれている。米ナショナル ジオグラフィックの海洋保全プロジェクト「プリスティン・シーズ」の関係者によれば、今年は強い「スーパーエルニーニョ」の影響で記録的な海洋高温が続いているという。
背景
太平洋の島嶼国は国土が小さく人口も少ないため、世界銀行や国連の気候基金といった既存の国際的な資金枠組みへの申請には、専門知識や事務手続きの負担が大きいという課題が以前から指摘されてきた。書類作成や審査に時間がかかる間に、干ばつやサイクロンといった災害への対応が後手に回るケースもあるとされる。PRFはこうした構造的な問題への対応として、地域主導で審査基準や手続きを簡素化し、現地の団体や自治体が直接資金を受け取れるようにする試みだ。
背景にはエネルギー面の脆弱性もある。太平洋の島嶼国の多くは発電を輸入した化石燃料に頼っており、豪ニューサウスウェールズ大学の報告書によれば、こうした国々はイラン情勢に伴う燃料価格の高騰で、国内総生産(GDP)の最大4分の1を化石燃料の輸入に費やしているという。研究に関わったウェズリー・モーガン氏は、援助国側が「口先だけでなく実際に資金を出すべきだ」とし、ディーゼル発電から太陽光や蓄電池、電力網の整備への転換にかかる初期費用を支援するよう求めた。
また、昨年のCOP30では化石燃料からの移行に関する世界的な工程表の採択が実現せず、今年4月には島嶼国を含む一部の国々がコロンビアのサンタマルタで独自の脱化石燃料サミットを開いた経緯もある。来年の会議はツバルが主催し、アイルランドが共同議長を務める予定で、この流れがCOP31でどこまで取り上げられるかも焦点になっている。
日本にとっての意味
日本は太平洋島嶼国との関係を重視し、政府開発援助(ODA)や気候変動対策の支援を通じて、これらの国々に資金を拠出してきた国の一つとされる。COP31はトルコが主催しオーストラリアが交渉議長を務め、太平洋地域が舞台の一つになる見通しで、日本もPRFへの拠出を求められる可能性がある。既存の国際気候基金には申請手続きの煩雑さという課題があるとされ、PRFのように地域が主導して迅速に資金を届ける仕組みが機能するかどうかは、今後の国際的な気候資金のあり方を占う試金石にもなりうる。日本が今後、拠出国としてこうした新しい枠組みにどう関わるかは、太平洋地域との外交関係だけでなく、気候資金の使われ方の透明性や実効性を検証するうえでも注目に値する。
また、太平洋の海洋高温や漁業資源の変化は、マグロなど日本の食卓に関わる水産物の供給にも中長期的に影響しうる問題であり、地域の海洋保護の動向は日本の消費者にとっても遠い話ではない。