気候・災害

南アフリカで急拡大するスペックブーム再生事業、資金と利害を追う

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南アフリカ東ケープ州で、家畜による過放牧で荒廃した在来の潅木地帯を再生する事業に、新たな資金が流れ込んでいる。中心となるのは「スペックブーム(spekboom、アフリカーンス語でベーコンの木の意)」と呼ばれる南アフリカ固有の多肉植物で、その植林を軸にした事業が9100万ドルの資金調達を発表したほか、米アマゾンもカーボンクレジットの購入に合意したと報じられた。カーボンクレジット(carbon credit、樹木などによる二酸化炭素の吸収量を市場で取引できるようにした仕組み)を通じて資金を回収する事業モデルへの期待が高まる一方、成長を急ぎすぎれば、まだ確立していない科学的な裏付けを超えてCO2削減量を約束してしまう恐れがあるとの懸念も指摘されている。

何が起きたのか

南アフリカ東ケープ州に広がる「オールバニー・シケット(Albany thicket)」と呼ばれる潅木地帯は、モヘア(アンゴラヤギの毛)生産のための放牧が数十年続いた結果、その約90%が食い荒らされ、多くの農地が砂漠のような姿になっている。この地域では150万ヘクタールの農地が再生を必要としているとされ、これまでの再生事業は小規模で職人的なものにとどまっていた。

そこに、これまでとは規模の違う資金が入り始めている。新規参入した事業者が9100万ドルの資金調達を発表し、うち2500万ドルは世界銀行の成果連動型債券、6600万ドルは少数の大口投資家によるものだ。テック大手のアマゾンも、新たな植林から生まれる見込みのカーボンクレジットの一部を購入することで合意しているという。植林による二酸化炭素の吸収量に対しては、1トンあたりおよそ20ドルから45ドルの価格が付けられていると伝えられている。これまでこの分野を担ってきたのは、東ケープ州の港湾都市ケベルハ(Gqeberha)近郊の農場クロンポールト(Krompoort)を所有する「Return to Thicket」のような小規模な再生団体だった。想定されている仕組みは、資金提供者が事業の立ち上げ費用を先に負担し、将来のカーボンクレジット販売で回収するというものだ。

クロンポールト農場には、1976年に泥水が納屋に流れ込むのを防ぐ目的で農家が植えたスペックブームの区画が今も残り、半世紀にわたる生育の記録を伝える貴重な研究地になっている。低く垂れた枝葉が地面を覆うことで、強い日差しと雨粒の衝撃から土壌を守り、他の植物や生き物が根付く環境をつくり出す。同様の効果は、世界遺産バヴィアーンスクルーフ(Baviaanskloof)に近いカンブリアと呼ばれる区画でも、20年前に植えられたスペックブームで確認されている。

背景

オールバニー・シケットは低木がびっしりと茂る南アフリカ固有の植生帯で、スペックブームはそこに生育する樹木の一種にすぎないが、乾燥に強く成長が早いことから再生の要となっている。生態系が地中や植物体内にどれだけの炭素を蓄えられるかという初期の試算があり、この数字をもとに事業者は投資家向けの採算計画を組み立て、カーボンクレジット市場から再生費用を調達しようとしている。

こうした資金の流れは世界的な潮流とも重なる。企業や国が自らの排出削減だけでは目標に届かない分の埋め合わせとして、他の場所での森林再生などによる吸収量をカーボンクレジットとして購入する動きが広がっており、資金を必要とする再生事業と、削減量を求める買い手の双方の思惑が一致した結果、南アフリカのスペックブーム再生も投資対象として注目されるようになったとみられる。ただし、こうした吸収量の推計はまだ研究途上にあり、事業規模の拡大に科学的な裏付けが追いつかなければ、販売されたクレジットの信頼性そのものが揺らぎかねないという懸念が、この分野の関係者から出ている。

日本にとっての意味

日本の企業や自治体も、自らの排出削減を補う手段として海外の森林再生や植林事業からカーボンクレジットを調達する例がある。今回報じられたスペックブーム再生のように、資金が急速に流入して事業規模が先行する案件では、実際の炭素吸収量が当初の試算通りに実現するかどうかが後から問われる可能性があり、購入したクレジットの価値が目減りするリスクを買い手側も抱えることになる。こうした事業の資金源や関係者の利害構造を知ることは、日本企業が海外のカーボンオフセット(carbon offset、他の場所での排出削減や吸収量を自社の削減分として計上する仕組み)調達先を選ぶ際に、事業の実態を見極める材料の一つになるといえる。