気候・災害

南アフリカ植林、世界銀行債券支える炭素クレジット市場の検証しにくさ

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南アフリカ東ケープ州で、乾燥に強い多肉植物スペックボーム(spekboom)を植えて荒れた牧草地を再生し、そこで生まれるカーボンクレジット(carbon credit、森林などが吸収した二酸化炭素を証書化し売買できるようにした仕組み)を売る事業が急速に広がっている。世界銀行は総額1.2億ドルの専用アウトカムボンド(outcome bond、事業の成果に応じて支払い額が変わる債券)を組成し、アマゾンの説明では、同社が最初の事業者からクレジットの一部を買うと約束したことで他の投資家も資金を出しやすくなったという。ただし事業者や資金の出し手の実態は外部から検証しにくく、実際に別の再生事業が行き詰まった例もある。

何が起きたのか

Mongabayが9月3日付で公開した調査報道は、スペックボームによる生態系再生を追った全3回連載の最終回で、独立系科学ライターのレオニー・ジュベール(Leonie Joubert)が、ステレンボッシュ大学気候研究スクール(Stellenbosch University School for Climate Studies)とヘンリー・ヌクマロ財団(Henry Nxumalo Foundation)の協力を得てまとめた。

取材地の東ケープ州では、家畜の放牧で長年痛めつけられた牧草地2,100ヘクタールを買い取った小規模事業「リターン・トゥ・シケット(Return to Thicket)」が、スペックボームの苗を植え直している。使われている苗の一部は、数年前に運営元の海外企業が撤退して閉鎖された別の再生事業から救い出されたものだという。植林したスペックボームは1ヘクタールあたり年間10.3トンの二酸化炭素を30年にわたって吸収すると見込まれている。1ヘクタールあたりの年間吸収量は、ロンドン・ニューヨーク間の往復航空便に個人がおよそ4回搭乗した際の排出量に相当する。

これと並行して、世界銀行はスペックボームの名を冠したアウトカムボンドを組成した。アマゾンの説明では、同社がこの債券を最初に活用した大規模事業者からクレジットの一部を買うと約束したことで、他の投資家が事業の実現性に信頼を持てるようになったという。

この最初の事業者は、現在計画している事業の半分強の範囲から、今後40年間で賃金や土地の賃料、農家へのクレジット収益の分配、税収、小規模事業支援などを通じて、停滞していた農業地域に約5億ドルをもたらすと見込んでいる。

Mongabayの調査は、こうした巨額の投資計画の裏付けを外部から検証することが難しく、事業が破綻した場合に何が起きるかという問いが置き去りにされている実態を指摘している。

背景

スペックボームは南アフリカ原産の乾燥に強い多肉植物で、枝を土に挿すだけで根付き、群生すると分厚い低木林(シケット、thicket)を作る。かつて東ケープ州のアルバニー・シケットと呼ばれるこの植生帯は羊やヤギの牧畜業を支えていたが、長年の過放牧で広い範囲が砂漠に近い状態まで劣化した。アルバニー・シケットは南アフリカの国土のわずか2.4%にあたる171万ヘクタールほどで、その9割が部分的または深刻に劣化しており、150万ヘクタールが緊急の修復を必要とするとされる。スペックボームを大量に植え直すことが、この土地を再生する最も現実的な手段とみられている。

こうした再生事業の資金源として近年広がっているのが、カーボンクレジット市場である。企業や政府が自ら排出削減を進める代わりに、他の場所での森林再生や植林による二酸化炭素吸収分を証書化したクレジットを購入し、自社の排出量と相殺(オフセット)する仕組みだ。植林や生態系再生によるクレジットは、工場の排出削減のように機器の稼働記録から吸収量を直接測定できるわけではなく、植生の生育状況や土壌の炭素量を推定に頼らざるを得ないため、第三者による検証が難しいという指摘がある。

加えて、クレジットは数十年単位で炭素を土地に固定し続けることを前提に売買されるため、事業者が資金繰りに行き詰まったり、山火事や干ばつで植生が失われたりして事業が途中で止まった場合、すでに売買済みのクレジットの扱いがどうなるのか明確なルールが整っていない市場もあるとされる。

世界銀行やアマゾンのような大手が関与すれば事業の信頼度は高まって見えるが、実際の会計や検証の中身がどこまで公開されているかは外部の記者や研究者にもわかりにくいままだという。

日本にとっての意味

今回の南アフリカの事例が示すのは、カーボンクレジット市場の多くが、開発事業者・クレジットの認証団体・出資する金融機関それぞれの内情を外部から検証しにくい構造にあるという点だ。世界銀行やアマゾンのような信頼度の高い名前が関わっていても、それは事業の実現性を保証するものではない。実際、この記事で紹介された別の再生事業は運営元の海外企業が撤退したことで閉鎖されており、そこで使われるはずだった苗は別の事業に転用される形で、かろうじて無駄にならずに済んだにすぎない。

海外の植林・再生事業に出資したり、そこで生まれるクレジットを購入したりする企業にとって、契約時点で見えている数十年分の吸収量見込みや収益予測が、事業が途中で頓挫した場合にどう扱われるかまでを事前に確認できているかどうかが、将来的なリスク管理の分かれ目になる。日本企業がこうした事業に関わる場合も、この点は変わらない。