気候・災害

インドネシア・ボルネオ島 コロナ下の生活支援と森林減少抑制の相関

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インドネシア・ボルネオ島の西カリマンタン州で、新型コロナウイルスの流行期に保護区の森林減少が縮小し、保健や生活支援を提供する非政府組織(NGO)とつながりのある村ほどその縮小幅が大きかったとする査読研究が、2026年7月に学術誌ランセット・プラネタリー・ヘルス(Lancet Planetary Health)に掲載された。研究者らは、木材需要の落ち込みや移動制限で伐採自体が難しくなったことに加え、生活支援を受けた住民は森林に頼らずに収入を得やすかった可能性があると指摘する。ただしこの研究は、直接の因果関係を示すものではないとされる。

何が起きたのか

米ノースカロライナ州立大学のスカイラー・ホプキンス氏らのチームは、西カリマンタン州の3種類の保護区を対象に、2018年初めから2020年3月上旬までと、2020年3月中旬から2021年11月下旬までの森林減少を衛星データと機械学習で比較した。その結果、パンデミック期の森林減少は流行前より39%少なかった。研究チームは、この州全体の減少について、木材需要の低迷と移動制限で伐採の採算が悪化し、実行そのものも難しくなったためとみている。

そのうえで、保健・生活支援NGOのAlam Sehat Lestari(ASRI)とYayasan Planet Indonesia(YPI)とつながりのある村と、そうでない村を比べると、両者の差が広がっていたことも分かった。パンデミック前、NGOとつながりのある村の森林減少は他の村より52%少なかったが、パンデミック期にはその差が68%まで広がった。つまり68%という数字は「森林減少が68%減った」という意味ではなく、パンデミック期に支援を受けた村の森林減少が支援のない村と比べてどれだけ少なかったかを示す水準の比較である。研究チームは2021年後半に10村(NGO支援下6村、非支援4村)で世帯調査を実施し、これを地域全体の28のNGO関連村と比較する衛星データ分析と組み合わせた。

調査対象世帯のうち伐採を行ったと答えたのは7%だったが、保護区内の伐採は違法であるため、実際の割合はこれより高い可能性があるとチームは注意を促している。伐採をやめた理由として世帯が挙げたのは、禁止されている、危険が伴う、他の仕事より稼ぎが少ない、というものだった。ホプキンス氏は声明で「パンデミックが始まったとき、私たちは経済的な困窮によって違法伐採が再び増えると予想していた」と述べており、実際の結果はその予想とは異なる方向を示したことになる。研究に関わっていないインドネシアの非営利団体BLESS Indonesiaのギタ・シャフラニ氏は、この結果を人間の暮らしと森林の健全性の結びつきを示すものと評価しつつ、因果関係の証明にはさらに慎重な検証が必要だと述べている。

背景

インドネシアは世界で3番目に広い熱帯林を持ち、生物多様性と炭素の巨大な貯蔵庫とされる一方、木材伐採や農地拡大、火災による減少が長年の課題とされてきた。森林に近い農村では、現金収入の手段が乏しい場合に違法伐採が生計の一部になりやすいという構造が指摘されている。今回の研究が焦点を当てたのは、こうした構造にコロナ禍という世界規模の経済ショックが重なったときに何が起きたか、という点である。

伐採の採算悪化と移動制限という外的要因だけでも森林減少は州全体で縮小したが、研究チームが着目したのは、それに加えて保健サービスや森林に頼らない別の収入源へのアクセスがある村ほど、支援のない村との差がさらに開いた点だ。シャフラニ氏によれば、インドネシア国内では、スマトラ島リアウ州シアクでの淡水魚(snakehead fish)やパイナップルの生産、西カリマンタン州シンタンでのテンカワン(tengkawang)と呼ばれる木の実の活用、スマトラ島ジャンビ州での地域主体の森林保全や炭素をめぐる取り組みなど、住民の生計と森林保全を組み合わせる試みが各地で行われてきたという。

日本にとっての意味

インドネシアは日本にとって木材や紙製品、パーム油などの主要な輸入元の一つとされ、その供給地の森林がどう保たれるかは、日本の産業や消費とも無縁ではない。また日本は政府開発援助(ODA)や、森林減少・劣化からの排出削減を通じて気候変動対策と森林保全を両立させる仕組みであるREDD+(レッドプラス)などの枠組みを通じ、インドネシアを含む熱帯林保有国の森林保全に資金を投じているとされる。

今回の研究が示す論点は、森林保全のための支援を「伐採の禁止・監視」だけで設計するか、それとも住民の保健や生計を支える仕組みと組み合わせて設計するかという違いが、結果を左右しうるということだ。過度に断定はできないが、生活の安定が損なわれたときに人が森林に頼らざるを得なくなるという構造が背景にある以上、規制だけに頼る保全策は経済ショック時に弱くなりやすいという含意がある。日本が関わる森林関連の支援や、企業のサプライチェーンにおける「森林減少ゼロ」の調達方針を考えるうえでも、規制や監視の強化だけでなく、現地住民の生活基盤をどう支えるかという視点が、実効性を左右する要素として参考になりうる。