サンゴの密輸、43か国で1300件超 観賞用と宝飾品の需要が背景に
2000年から2025年にかけて、生きたサンゴの密輸が少なくとも43か国で1300件以上確認されている。関わったサンゴは合計315万個に上り、輸入先としては米国が突出して多い。密輸業者は税関を欺くため、荷物を衣類やおもちゃ、食品と偽って申告するケースが相次いでいるという。
何が起きたのか
野生生物の密売防止に取り組む英国のNGO、トラフィック(TRAFFIC)が集めたデータを、Mongabayが分析した。データは法執行機関の記録や報道、SNSの投稿をもとに集計され、独自に検証されたものだという。事例の多くはフィリピンやインドネシアなど東南アジアからの持ち出しに絡んでいた。
象徴的な事例が、フィリピンでオンラインショップ「ArtReef Rocks」を営んでいたグレン・アルバート・ビノヤ氏をめぐるものだ。新型コロナウイルスの流行期に人気を集め、地元の愛好家の間では、アラゴナイトという鉱物とサンゴ礁の岩を砕いたものを組み合わせた水槽用の造形物「人工ライブロック」の考案者とされていた。2023年には米ニューヨークとオーランドで開かれた海水魚アクアリウムの見本市、リーフアパルーザ(Reefapalooza)にも出展していた。
だが米国の裁判記録によれば、ビノヤ氏は2015年から2018年にかけて少なくとも30回、計3000個のサンゴ片を米国の顧客に不正輸出していた。フィリピン当局と米内務省、米魚類野生生物局による共同捜査の末、2018年8月、首都マニラの南およそ50キロメートルにあるカビテ州の自宅で逮捕された。自宅からは生きたサンゴ1700個超のほか、枯れた枝サンゴ15キログラム、シャコガイ3個が押収され、推定価値は270万ペソ(当時の為替レートで約5万1000ドル)に上ったという。フィリピン国家捜査局(NBI)によると、ビノヤ氏は、科学・研究目的を除きサンゴの採取・所持・輸送・販売・輸出を禁じる同国の漁業法に違反したとして起訴された。ビノヤ氏は保釈されたが、事件とは無関係の病気により2023年に死去した。
このビノヤ氏を通じてサンゴを仕入れていた米国の10人は、それぞれ別の州でサンゴ販売業を営んでいたが、2022年にアラスカ州の当局から、野生生物の取引を規制する米国の法律レイシー法(Lacey Act)違反で起訴された。ビノヤ氏は、サンゴを税関の検査に通す方法についてメッセージに書いていたとされる。
各国での摘発も相次ぐ。2025年初め、中国の港湾当局は、入国した4人の乗客の腰や腹部、胸部、臀部にビニール袋で貼り付けられた絶滅危惧種のイシサンゴ(骨格の硬いサンゴ)少なくとも160点を発見・押収した。同年8月には香港で、生きたサンゴ1500点超のほか、米国とフィリピンから送られた生きたリクガメ数百匹も押収され、推定市場価値は約431万香港ドル(約55万ドル)相当とされた。荷物は衣類やおもちゃ、食品と偽って申告されており、荷物の受け取りに関わった5人が逮捕され、その後保釈された。
こうした摘発は氷山の一角に過ぎないとみられる。密輸の全体像を把握するのは難しく、報告されていない事例も多いと専門家は指摘する。
背景
サンゴは国際的な希少種取引を規制する条約や各国の法律のもとで、条件を満たせば取引が認められている。しかし観賞用(アクアリウム)、宝飾品、置物といった市場で希少な種類ほど高値がつく傾向があるとされ、この価格差が違法採取と密輸を誘発しているという。
サンゴの密輸が横行する背景には、税関で見破りにくいという事情もある。養殖されたサンゴと違法に採取された天然のサンゴを外見だけで見分けるのは難しいとされる。
世界のサンゴ礁は白化現象などで損なわれているとの指摘が繰り返しなされており、密輸はこうした既存の脅威をさらに悪化させているとみられる。専門家は、養殖したサンゴを代替品として流通させたり、養殖サンゴを染色して天然由来でないことが一目で分かるようにしたりする対策が、違法採取品の見分けを容易にすると指摘している。
日本にとっての意味
今回報じられた事例に日本は直接登場しないが、サンゴをめぐる国際取引と日本の接点は複数ある。まず、宝飾品としての需要だ。日本には古くから宝石サンゴを加工・取引してきた歴史があるとされ、装飾品への需要が違法採取を後押しする構図は、観賞用サンゴと変わらない。
渡航にまつわるリスクもある。海外でサンゴ製品を土産として購入し持ち帰る行為が、輸出入の規制に触れる可能性は一般に指摘されており、事情を知らずに規制対象の種類を持ち帰れば摘発につながりかねない。
さらに、日本は観賞魚・観賞用サンゴの愛好者が多い国の一つとされる。個人が海外通販や現地の業者から購入したサンゴが、今回のビノヤ氏のケースのように違法な密輸網を経由している可能性は否定できない。専門家が指摘する、養殖サンゴを染色して由来を示す仕組みが広がれば、消費者が購入時に出どころを確認しやすくなるかもしれない。