ルイ・ヴィトンとシンガーが手掛けたポルシェ911、2台の異色改造車
米カリフォルニア州で開かれた自動車イベント「モントレー・カー・ウィーク2026」で、ポルシェ911の改造を手掛ける「シンガー・ビークル・デザイン(Singer Vehicle Design)」がルイ・ヴィトンとの初のコラボレーションを発表した。作られたのは性格の異なる2台で、内装から車体色まで全面的に作り直されている。
何が起きたのか
発表されたのは「ポルシェ911 リイマジンド・バイ・シンガー クラシック」と、その姉妹車である「クラシック・ターボ」の2台。クラシックはサフラン色のボディにコバルトブルーとイエローを組み合わせ、ルイ・ヴィトンが持つ旅行・ラゲージ・時計作りの歴史を反映させた。もう1台のクラシック・ターボは、ルイ・ヴィトンで女性コレクションのアーティスティック・ディレクターを務めるニコラ・ジェスキエールが関わり、白いボディに木材を多用した、クラシックなモーターボートを思わせる仕立てになっている。
シンガーの創業者でエグゼクティブ・チェアマンを務めるロブ・ディキンソン氏によると、2台の制作ではパリ、カリフォルニア、イギリスのチームが数年にわたって行き来し、デザイン画や革のサンプル、車体の写真をやり取りしながら進められたという。クラシックの計器盤には、ルイ・ヴィトンのスイスの時計工房「ラ・ファブリック・デュ・タン」が、同社の代表的な腕時計「タンブール」から着想を得た取り外し可能な機械式クロックを開発。これを違和感なく組み込むため、周囲の速度計や回転計まで含めた計器盤全体を作り直す、約1年がかりの作業になった。車内には、ルイ・ヴィトンのラゲージに使われる牛革を思わせる自然な色合いの革が張られ、イエローのステッチやダイヤモンド柄の型押しが施された。プラスチック部品の多くは金属製のスイッチや通気口、ロックに置き換えられ、時計作りで培われた仕上げ技術が使われているという。屋根にはスキー板やサーフボードも積めるルーフラックが備わる。
クラシック・ターボはクロックの位置をセンターコンソールに移し、ゴールドのゲージと自然な色合いの革を組み合わせた。後部の荷物置き場にはニス仕上げの木材が使われ、伸びやかな形状の白いソフトトップとあわせて、木造モーターボートの甲板を思わせる仕上がりになっている。シフトノブには革のひもを引いて締める、ルイ・ヴィトンでおなじみの留め具を思わせる仕掛けがある。話のきっかけは、ある顧客がダッシュボードにルイ・ヴィトンのクロックを付けたいと希望したことだった。シンガーのチーフ・ストラテジー・オフィサー、マゼン・ファワズ氏は、そこから「協業は車のあらゆる要素に及ぶまでに広がった」と述べている。
背景
シンガーは創業から17年、旧型のポルシェ911を土台に内外装や機構を現代の技術で作り直す「レストモッド(restomod、旧車を現代の部品や技術で仕立て直す改造)」を専門とする会社として知られてきた。単なる修理ではなく、1台ごとに設計から見直す点が特徴だ。
一方のルイ・ヴィトンは、自動車が登場して間もない時期から自動車専用のトランクを製造してきた歴史を持つ。旅行鞄のブランドとして出発した同社にとって、車と荷物という組み合わせは目新しいものではない。今回のクロックがきっかけとなった協業は、ルイ・ヴィトン自前の腕時計工房が持つ機械式時計の技術と、革工芸の職人技を、乗り物という別の工芸品に持ち込んだ試みといえる。ラグジュアリーブランドが自動車の内装や周辺領域に技術を提供する動きは近年しばしば見られるが、今回のように計器盤ごと1年がかりで作り直すような踏み込んだ関わり方は珍しい部類に入るとみられる。
日本にとっての意味
ルイ・ヴィトンは日本でも旅行鞄や革製品のブランドとして広く知られ、腕時計事業を含めた店舗展開も行っている。今回の2台は市販車ではなく、車の改造と高級ブランドの職人技という2つの専門分野が交わる話題であり、直接店頭で目にする機会は少ない。ただ、スイッチや通気口の仕上げに時計作りの技術を応用するという発想や、革の張り方に見られる細部へのこだわりは、ルイ・ヴィトンが日本で展開する革製品や時計の作り方を理解するうえでも参考になる事例といえる。また日本には旧型ポルシェ911の愛好家層が一定数存在し、レストモッドという改造の考え方自体が、国内の旧車ファンやカーデザインに関心を持つ読者にとって具体的な関心の対象になりやすい。今回のニュースは、一般消費者向けというより、車とラグジュアリーブランドの両方に関心を持つ層に向けた話題といえる。