独ライプツィヒでロシア関与疑いの攻撃、NATOが独への連帯表明
NATOのマルク・ルッテ事務総長は現地時間9月1日、ドイツのライプツィヒで現地時間8月14日に起きたとされる「ロシアによるハイブリッド攻撃(hybrid attack、軍事力を使わずに情報戦やサイバー攻撃、破壊工作などを組み合わせて相手国を揺さぶる手法)」について、ドイツへの全面的な連帯を表明した。ドイツの捜査当局は、当初考えられていたよりも事態が深刻だったことを明らかにしている。
何が起きたのか
ルッテ事務総長は自身のX(旧ツイッター)で、フリードリヒ・メルツ独首相と協議したと明らかにしたうえで「NATOは8月14日のライプツィヒでのロシアによるハイブリッド攻撃を受け、ドイツと全面的に連帯する」と述べ、証拠は明白だとして、ドイツ政府が発表した対応策を歓迎した。ドイツ当局は8月下旬、ライプツィヒ空港でウクライナのアントノフ社製貨物機を狙った8月の攻撃未遂について、当初の説明より深刻な内容だったとメディアに明らかにした。使われたドローンには爆発物が仕掛けられており、捜査当局は1機ではなく複数のドローンが関与していたと結論づけたという。
ドイツの新聞ヴェルト・アム・ゾンタークは、ベルリン近郊で武器の隠し場所が見つかったことも、ドイツ政府の姿勢を硬化させたと報じた。ドイツの国内情報機関である憲法擁護庁(BfV)は、この武器がロシアのスパイのために隠されたもので、モスクワの指示で暗殺を実行する目的があった可能性があると評価しているという。ルッテ事務総長は、ライプツィヒなど加盟国各地で見られる「悪意ある行為」に対抗するため、NATOが抑止力と全加盟国防衛の能力強化を続けるとし、「ロシアが我々を脅し、結束とウクライナ支援の意思を揺るがそうとする試みは無駄であり、失敗するだろう」と述べた。ウクライナへの支援は「揺るぎない」ものであり、NATOの集団防衛への「鉄壁の関与」も変わらないとしている。ベルリンのロシア大使館はこの疑惑について公式声明を出していない。ロシア政府はこれまでも、ウクライナと同盟関係にある国々での暗殺・破壊工作・スパイ活動への関与を否定し、西側諸国が「反ロシア的な被害妄想」を煽っていると非難してきた。
背景
ロシアによる「ハイブリッド攻撃」への懸念は、2022年のウクライナ侵攻以降、欧州で急速に高まってきた。正規軍を直接投入する代わりに、破壊工作やサイバー攻撃、偽情報の拡散、重要インフラへの妨害などを組み合わせ、相手国に損害や混乱を与えながらも「戦争」とは公式に認定されにくい形で圧力をかける手法とされる。欧州では近年、通信ケーブルの損傷や物流施設への放火、ドローンによる空港・軍事施設周辺への飛来など、ロシアの関与が疑われる事案が相次いで報告されており、各国の情報機関がその実行者としてロシアの情報機関や、金銭で動く現地の実行犯を指摘するケースが増えているとみられる。
ライプツィヒ空港はウクライナ向け軍事支援物資の輸送拠点としても使われてきたとされ、そこでウクライナの貨物機が爆発物付きドローンの標的になったとすれば、ウクライナへの兵站を妨害する狙いがあったとの見方が成り立つ。またベルリン近郊での武器隠匿については、ドイツの情報機関が暗殺目的の可能性を指摘しており、事実であれば単なる妨害工作を超え、要人や関係者の生命に関わる深刻な事態となる。NATOがこうした個別事案について加盟国と足並みをそろえて名指しで連帯表明をするのは、抑止のメッセージを発する意味合いが強いといえる。
日本にとっての意味
日本では、ロシアや中国による灰色地帯(グレーゾーン)の脅威というと、領海侵入や偵察活動、サイバー攻撃といった形で語られることが多く、欧州で起きているような、輸送インフラを狙った破壊工作や暗殺目的とされる武器隠匿の事例が詳しく報じられる機会は少ない。しかし手法自体は特定の地域に限られたものではなく、日本の空港や港湾、通信インフラも同種の手口の対象になりうるという指摘は専門家の間で以前からある。
また今回の事案には、ウクライナ支援を続ける国が標的になったという構図もある。日本もウクライナへの人道・経済支援を続けており、支援国であること自体が圧力の対象になりうる。ドイツが具体的な証拠を公表し、NATOが加盟国として即座に連帯を表明したという今回の対応の流れは、こうした事案が起きた際にどう情報を公開し、どう国際的な連携で応じるかという点で、日本の安全保障政策を考えるうえでも参考になる事例といえる。