MADとStantec、LAのルーカス美術館を開館前に公開
建築事務所のMADとスタンテックが手がけた米ロサンゼルスの「ルーカス・ミュージアム・オブ・ナラティブアート(物語芸術美術館)」の姿が、開館を前に公開された。「夢のような」曲面の建物を1200枚を超えるパネルが覆う。映画「スター・ウォーズ」の生みの親ジョージ・ルーカス氏と実業家メロディ・ホブソン氏が創設した「物語ること」に捧げる美術館で、2018年に着工し、現地時間9月22日に一般公開が始まる。
何が起きたのか
美術館はロサンゼルスのエクスポジション・パーク近くの約5.3ヘクタール(13エーカー)の敷地に立つ5階建て。中央がくびれた細長い形をしており、白い繊維ガラス強化ポリマー製の曲面パネル1271枚が外装を覆って、宇宙船のような滑らかな姿を作る。パネルは平均で約2.4×9.7メートル。建物の縁は支持部を大きく越えて張り出し、「公園の上に浮かんでいるような印象」を狙ったとMADは説明する。MAD創設者のマー・ヤンソン氏は、この建物を「あらゆる部分が流動的になるよう、感情に働きかける建築空間として設計した」と述べ、同時に「風景の自然の一部のように」周囲に溶け込むことも意図したという。
建物の中央には半屋外の大広場があり、その上に約56メートル(185フィート)の鋼梁で支えられた巨大なオクルス(円形の開口)が載って、上層のギャラリー階を分けている。広場の両側がロビーで、片方は木仕上げ、もう片方は白い曲面パネル仕上げ。白い側には円筒形のガラスエレベーター3基が立ち、その奥に299席の劇場2つが並ぶ。下層2フロアには風景を望む馬蹄形の図書室と教室、ショップ、カフェが入り、4階が展示の中心。5階にも展示室と、ロックウェル・グループが内装を手がけたレストラン「スカイウォーカー・グリル」がある。
展示室の設計はWHYアーキテクチャーで、白壁と寄木の床による比較的オーソドックスな空間だが、スター・ウォーズの区画などでは外装と呼応する曲面パネルが再び現れる。収蔵・展示されるのは、古代の洞窟壁画の再現からルネサンス絵画、スター・ウォーズの小道具まで、物語を伝える芸術の幅広い集積だ。「この美術館は、人類の物語と、それを描いてきた芸術家たちをたたえるために作られた」とルーカス氏は言う。「このコレクションの作家たちは、ただ絵を作ったのではない。現代の想像力を、共同体を生む共通の信念とともに、私たちの古来の感情に結びつけた。その仕事はジャンルも媒体も時代もまたぐ」
背景
地震国カリフォルニアの建物として、構造面では耐震性が重視された。281基の免震装置に加え、建物の周囲には「堀」が巡らされ、地震の際に建物のまわりの地盤が動けるようにしてある。屋根は太陽光パネルで覆われない部分が緑化され、造園を担当したスタジオMLAの起伏のある庭園が、巨大な建物を隣接する公園と街につなぐ。同スタジオは「来館者を旅人と見立て、カリフォルニアの丘陵や渓谷、メサ、草地といった劇的な地形から着想を得た。舞台が変われば物語が変わるように、地形と植栽と光が移り変わる旅を作った」と説明し、庭園には決まった順路がない。
MADは記念碑的な建築で知られる北京発の事務所で、Dezeenの2025年デザイナー・オブ・ザ・イヤーにも選ばれている。ルーカス美術館は当初シカゴなどで計画された経緯があり、ロサンゼルスでの着工から8年をかけて完成にこぎつけた。
日本にとっての意味
映画作家が私財を投じて「物語る芸術」の美術館を作るという構図には、日本に有名な先例がある。宮崎駿氏の発案で2001年に開館した三鷹の森ジブリ美術館だ。アニメーションの原画や制作過程を展示の核に据え、順路を決めない建物で「迷子になろうよ、いっしょに。」と掲げた三鷹の試みと、洞窟壁画からスター・ウォーズまでを一続きの「物語芸術」として並べ、庭園にすら単一の順路を作らなかったルーカス美術館は、発想の面で響き合う。
また、挿絵や映画美術、コミックアートといった「商業美術」を正面から収蔵する大型館の誕生は、漫画やアニメの原画の保存・展示のあり方を模索する日本にとっても示唆的だ。スター・ウォーズの小道具がルネサンス絵画と同じ屋根の下に並ぶ光景は、物語を支えてきた絵の価値をどう位置づけるかという問いを、規模の面で一段引き上げている。