アート・カルチャー

ICE、フロリダで古代文化財2万2000点押収 密輸捜査で過去最大

米国 の記事一覧 ・ 南北アメリカ

米移民税関捜査局(ICE)が現地時間8月、フロリダ州で古代の文化財2万2000点余りを押収した。ギリシャ・ローマ時代の硬貨やテラコッタ、ガラス製の器、宝飾品、モザイクの額縁などが含まれ、同州で続く文化財密輸捜査としては過去最大の押収量となった。その前月には、米国土安全保障省(DHS)が国境沿いの工事を急ぐため文化財保護の規制の多くを免除しており、文化財行政をめぐる同省の姿勢に注目が集まっている。

何が起きたのか

押収されたのは、1000年から5000年前とされる古代の遺物で、ヨーロッパや東地中海、アフリカ、レバントの各地を出どころとするとみられる。タンパの国土安全保障調査局(HSI)は、南フロリダ大学とペンシルベニア大学の考古学の専門家と協力し、押収品の真贋の確認や由来の特定、保存作業を進めているという。今回の押収は、フロリダ州で続く文化財密輸事件の捜査の一環で、これまでで最も規模の大きい摘発となった。

一方でDHSとICEをめぐっては、移民に対する取り締まりの強化が文化財保護にも影響を及ぼしている。現地時間4月には、トランプ政権が進める国境の壁の建設工事にあたっていた税関・国境警備局の作業員が、アリゾナ州にある1000年以上前のネイティブアメリカンの遺跡「ラス・プラヤス・インタリオ」を重機で誤って傷つけ、遺跡の4分の1が損壊する事態となった。さらに現地時間7月には、DHSがテキサス州のビッグベンド地域からアミスタッド貯水池にかけての国境沿いで、壁の建設を急ぐために環境・公衆衛生・歴史的遺産の保護に関する規制の大半を免除する措置を取り、周辺の400カ所以上の考古学的遺跡が脅かされる状況になっている。

背景

古代の遺物が国境を越えて売買される背景には、紛争地域や経済的に不安定な地域で遺跡の盗掘が横行し、出どころを偽装した文化財が美術市場に流れ込む構造があるとみられる。こうした不正な取引を防ぐための国際的な枠組みが、1970年にユネスコで採択された「文化財の不法な輸入、輸出及び所有権移転を禁止し及び防止する手段に関する条約」だ。この条約は、盗掘品や不法に持ち出された文化財の国際取引を規制し、原産国への返還を各国が協力して進めることを目的としている。米国も締約国であり、ICEやHSIによる摘発は、この条約の履行を担う実務の一端といえる。

今回の押収が注目されるのは、その規模だけでなく、摘発を担うDHSやICEが同時期に文化財保護そのものを後退させる決定を下している点だ。移民の取り締まりを最優先する政権の方針のもと、国境の壁の建設を急ぐために環境や歴史的遺産の保護規制が免除され、結果として先住民の遺跡が損壊するという、文化財保護の観点からは矛盾した事態が生じている。密輸された文化財を摘発する一方で、自国内の文化遺産を工事で傷つけているという構図は、米国の文化財行政の一貫性に疑問を投げかけている。

日本にとっての意味

出どころの不明な古美術品が国境を越えて流通するという問題は、日本の美術市場や骨董品の輸入とも無縁ではない。日本は1970年のユネスコ条約を2002年に締結し、国内法を通じて不正に持ち出された海外の文化財の輸入を規制する仕組みを持っている。しかし、出どころの証明が不十分な古美術品が国際的なオークションや骨董品市場を経由して国内に流入する懸念は、専門家の間でたびたび指摘されてきた。今回のようにICEが押収品の由来の特定や保存に大学の考古学者を動員している事例は、出どころの追跡と返還の実務がどのように進められるかを知る手がかりになる。押収された文化財が最終的にどの国に、どのような手続きで返還されるのかは今後の焦点であり、日本の美術館や輸入業者が海外の古美術品を扱う際の出どころ確認のあり方を考える上でも参考になるだろう。