新型コロナ感染がループスと同じ免疫経路を起動か 米研究
米シアトルのシステム生物学研究所(Institute for Systems Biology、ISB)の研究チームが、新型コロナウイルス感染後に一部の人だけが自己抗体(autoantibody、自分自身の体を誤って攻撃する抗体)を作ってしまう仕組みを、免疫細胞レベルで特定したと発表した。研究成果は医学誌Immunityに掲載され、自己免疫疾患の代表格であるループスと共通する免疫経路が関わっている可能性が示された。
何が起きたのか
研究チームは、新型コロナに感染した209人分のデータを分析し、そのうち自己抗体の量が大きく異なる12人の女性を選び出した。年齢をそろえたうえで、自己抗体が少ないグループと多いグループに分け、免疫細胞の働きを詳しく調べた。データはオミクロン株の出現前、参加者がワクチンを接種する前の時期に集められたという。結果の一部は、別に集めた101人分のデータで確認された。
分析の結果、「非定型メモリーB細胞」と呼ばれる免疫細胞の一種が、自己抗体が多いグループでは自己抗体を作り出す細胞へと変化しやすいことが分かった。特に、この中でも「DN2細胞(double-negative 2 B細胞)」と呼ばれるタイプが、自己抗体が多いグループで目立って多く見られた。DN2細胞は、ループスなど他の自己免疫疾患でも自己抗体の産生に関わるとされる細胞だという。研究チームは、自己抗体が多いグループでは、体内に侵入した病原体を感知する「自然免疫」の経路、特にDN2細胞におけるその働きが強まっていたと報告している。
筆頭著者のダン・ユアン氏はISBの発表資料で「今回の結果は、新型コロナウイルス感染が、既知の自己免疫疾患に関わるものとよく似た免疫の働きを起動しうることを示している。これが、感染後に自己免疫の合併症を経験する人がいる理由の説明につながる」と述べている。研究チームは、感染をきっかけに活性化する免疫の経路を特定できれば、将来的にそれを標的とした治療法の開発につながる可能性があるとしている。
背景
免疫システムは通常、体内に侵入した細菌やウイルスを見つけて排除するために抗体を作る。しかし、まれにこの働きが誤作動し、自分自身の組織を攻撃してしまう自己抗体が作られることがある。これが自己免疫疾患の基本的な仕組みで、ループス(全身性エリテマトーデス)や関節リウマチなどが代表例として知られる。
新型コロナに感染した人の一部で自己抗体が検出され、それが重症化や後遺症、さらには感染後に新たに自己免疫疾患を発症するリスクの高まりと関連することは、これまでの研究でも指摘されてきた。ただし、なぜ一部の人だけにこうした反応が起きるのか、その引き金となる細胞や仕組みは明らかになっていなかった。今回の研究は、その空白を埋める試みだといえる。なお自己抗体は女性や高齢者で出やすいとされており、研究チームが分析対象を女性に絞った背景にもこの傾向があるとみられる。
日本にとっての意味
この研究は米国発で、著名人や日本が直接関わる話題ではないため、国内の大手メディアが取り上げる可能性は低い。しかし、内容そのものは新型コロナの後遺症、いわゆる「ロングCOVID」に悩む人にとって無関係ではない。倦怠感や関節痛など後遺症の症状の一部が、自己免疫疾患に似た仕組みで起きているのではないかという見方は以前からあったが、今回の研究はその仕組みに関わる具体的な免疫細胞を示した点で意味がある。
日本国内でも新型コロナの感染は繰り返し起きており、感染後に体調不良が長引く人は少なくない。原因不明の不調として片付けられがちな症状の背景に、ループスのような自己免疫疾患と共通する免疫の働きがあるかもしれないという知見は、患者が症状を医師に説明したり、治療方針を相談したりする際の手がかりになりうる。研究がすぐに新しい治療法につながるわけではないが、後遺症の原因解明が進んでいる一つの事例として知っておく価値がある。