ルーカス夫妻の10億ドル美術館、着工から8年でLAに開館へ
映画『スター・ウォーズ』シリーズの監督ジョージ・ルーカスと、妻で投資会社アリエル・インベストメンツの最高経営責任者を務めるメロディ・ホブソンが、私財を投じて建設してきた「ルーカス・ミュージアム・オブ・ナラティブ・アート」が、現地の9月22日にロサンゼルスのエクスポジション・パークで開館する。2018年の起工式から8年、建設費は総額10億ドルに上る。当初は2021年開館の予定だったが、2度にわたり延期されていた。
何が起きたのか
建物は建築家、馬岩松(マー・ヤンソン)率いるMAD Architectsが設計した。曲線を多用したSF映画的な外観で、展示空間は約2万8000平方メートル(30万平方フィート)に及ぶ。造園はスタジオMLAのミア・レーラーが手がけ、緑豊かな庭園と遊歩道が建物を取り囲む。マー氏は、ロサンゼルスでは日差しを遮る覆いが要るとして、大きな木のように建物を浮かせて下にいる人に影を落とし、空を見上げられる開口部を持つ広場を設けたと説明している。
開館時の展示は、ルーカスとホブソンが個人で集めた約4万点のコレクションのうち、1200点余りを35の展示室に並べる構成だ。82歳のルーカスは大学時代からコミックを集め始めたといい、ロバート・クラムらによる20世紀のコミック作品を、フリーダ・カーロの自画像やノーマン・ロックウェル、マックスフィールド・パリッシュの絵画と同じ館内で見せる。バンクシーの作品を集めた部屋もある。ルーカス自身はスター・ウォーズの美術館ではないと繰り返し強調してきたが、『シスの復讐』に登場するグリーヴァス将軍の乗り物など映画関連の展示物も一部含まれる。
展示室は年代や作家ごとではなく、「遊び」「愛」「家族」「冒険」といった主題で区分されている。館内には299席の映画館が2つあり、うち一つはドキュメンタリー映画作家ロバート・J・フラハティ(1884〜1951年)にちなんで名付けられ、館のために制作されたドキュメンタリーや、ディエゴ・リベラらを扱った映画が上映される予定だ。もう一つの劇場は映画作家スラフコ・ヴォルカピッチ(1894〜1976年)の名を冠している。
背景
この美術館が収集の柱に据えるのは、創設者自身が名付けた「ナラティブ・アート(narrative art、言葉で語られる物語を絵や造形に置き換えた表現)」という独自の分類だ。初代キュレーターで現在は上級キュレーター兼映画部門責任者を務めるライアン・リンコフ氏は、ナラティブ・アートは物語ることに根ざした表現だとしたうえで、「すべての美術には物語があるが、すべての美術が物語についてのものではない」と説明する。既存の美術館では脇に置かれがちだったイラストレーターや大衆向けの作品を、正面から取り上げるのがこの館の狙いだという。
その発想の背景には、ホブソンの経歴があるとみられる。ホブソンは経済的に不安定な母子家庭で育ち、元スターバックス会長という立場から一貫して、美術館を出自を問わず誰もが楽しめる場にしたいと語ってきた。5月の米ヴォーグ誌のインタビューでは、ミュージアムショップで25セントの鉛筆を売りたいという構想を明かしている。削るごとに「下書き」「第2稿」「第3稿」という文字が現れる仕掛けだという。
入館料の設計にもその考え方が表れている。17歳以下は無料、館周辺の郵便番号90037に住む約6万5000人の住民は年間パスに登録できる。館内の図書室は誰でも無料で使える。一般の大人料金は25ドル、シニアは21ドルだ。
ルーカスは高尚な美術と大衆向けの表現に上下の区別を設けない立場を取ってきたとされ、こうした料金体系や展示の並べ方は、その考えを制度として具体化したものといえる。
日本にとっての意味
日本にも大衆文化を美術館として扱う施設は少なくない。京都国際マンガミュージアムや三鷹の森ジブリ美術館、国立映画アーカイブなどがその例だ。ただ、これらの多くは公立や企業設立の施設で、コレクションの性格もそれぞれの分野に絞られている。ルーカス・ミュージアムが際立つのは、一人の収集家夫妻が、コミックの一コマとフリーダ・カーロの自画像を同じ壁に並べるという編集方針を、私財を投じて実現させた点だ。
日本の映画ファンやコミック・アートの愛好者にとっては、スター・ウォーズ関連の展示物が目当てになるだろうが、ルーカス側があくまでスター・ウォーズの美術館ではないと位置づけている点は押さえておきたい。旅行の実用情報としても、現地9月22日の開館後はロサンゼルスのエクスポジション・パークで見学でき、17歳以下は無料、大人は25ドルという料金は覚えておく価値がある。米国のポップカルチャーが、どのような文脈で「美術」として制度化されていくかを見る手がかりにもなる開館だ。