気候・災害

韓国の海女、港湾工事で海が死んだと訴え企業に補償要求

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韓国東海岸の漁村グマンリ(Guman-ri)で、地元の「海女(ヘニョ)」たちが、港の防波堤工事が原因で海の生態系が壊滅したとして、建設大手の双龍(サンヨン)建設に補償を求めている。海女たちはソウルへ抗議に赴き、企業や政府を相手取った訴訟も視野に入れているという。しかし多くが70代、80代と高齢で、時間との闘いにもなっている。

何が起きたのか

2021年、双龍建設がグマンリと隣接するデボリ(Daebo-ri)の間にある港で、防波堤の拡張・補修工事を開始した。以降、周辺の海の生態系が徐々に衰退していき、2025年初めには、かつて豊かだった海底が、死んだ海洋生物の残骸で覆われる状態になっていたという。

この海域は保護海域に指定されているにもかかわらず、アワビや大ぶりの巻き貝、透き通った緑の海藻はほとんど姿を消し、代わりに白い粉状のセメントの破片が広がっている。住民はこの破片を防波堤工事によるものとみている。78歳の海女、キム・チュンヒさんは「以前はこんなもの無かった。今は至る所にある」と話す。

影響を受けているのは、グマンリの23人とデボリの30人、合わせて53人の海女だ。キムさんら70代の海女は酸素ボンベを使わず素潜りで水深最大10メートルまで潜り、90秒息を止めて漁をする。1日12時間に及ぶ作業で獲物を約20キロも運ぶ重労働だが、これまでの半世紀ほどは、生活費と子どもの教育費を賄うのに十分な収入をもたらしてきた。

海女たちが企業に求めているのは補償だが、提示された和解案はソウルへの抗議行動の費用をわずかに上回る程度の金額にとどまっているという。工事と生態系破壊の因果関係を示す科学的証拠が必要になるため、費用と時間のかかる訴訟も選択肢から排除していないが、多くが70代、80代であり時間の余裕は乏しい。

背景

工事は韓国海洋水産部(Ministry of Oceans and Fisheries)のポハン(浦項)地方事務所が2017年に提案したもので、台風から漁船を守るための防波堤拡張が名目だった。計画は両村を代表する高齢の漁師7人の同意を得て進められたが、海の生態系や海女の暮らしへの影響について事前に相談されることはなかった。2025年になって事態を知った海女たちがこの7人を問いただすと、彼らは何が起きるか分からなかったと説明し謝罪したというが、その時にはすでに生態系は崩壊した後だった。

グマンリはもともと、多くの試練を経験してきた集落だ。太平洋から来る台風で毎年のように木がなぎ倒され漁船が転覆し、2005年には4千トン級の貨物船が座礁して海の食料源を汚した過去もある。朝鮮戦争(1950〜1953年)では多数の住民が犠牲になる悲劇にも見舞われた。それでも住民は繰り返し立ち直ってきたが、今回の生態系破壊には言葉を失っているという。

韓国の海女文化は済州島のものがよく知られ、ユネスコの無形文化遺産にも登録されている。だがグマンリのように済州島以外の沿岸にも、素潜り漁を生業とする女性たちの共同体は各地に存在するとみられる。今回の問題は、工事計画への説明と同意の手続きが、実際に海に潜り生計を立てる女性たち自身を素通りして進んだ点にあるといえそうだ。

日本にとっての意味

素潜りで漁をする「海女」は日本でも三重県や石川県などに現存し、生きた文化であり生業でもある。韓国のヘニョと日本の海女はよく似た潜水の技法や文化を持ち、高齢化と担い手不足という課題も共有している。今回のグマンリの事例は、その担い手たちの生活基盤が、防波堤や港湾といった公共インフラの整備によって失われかねないことを、具体的な地名と当事者の声とともに示している。

日本でも漁港の改修や防波堤工事は各地で継続的に行われている。グマンリでは、海女ではなく代表格の男性漁師だけが計画に同意し、実際に海に潜る当事者への説明が抜け落ちていた。同じような合意形成の抜け穴は、日本の漁業現場でも起こり得るとみられる。

また、この問題は開発と伝統的な漁業、生態系保全がぶつかる典型例でもある。日本でも漁港整備や防波堤建設が藻場や磯根資源に影響を与えたとする指摘は各地にあり、韓国の事例は、同種の紛争が起きた際にどう補償や科学的な検証を進めるかを考える手がかりになる。