気候・災害

国連カーボンクレジット規則の強化案、業界・一部NGOが協調して反発

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国連の温室効果ガス削減の仕組みで発行されるカーボンクレジット(carbon credit)について、火災や干ばつ、伐採で炭素の蓄えが失われるリスクへの備えを強化する新しい規則案が浮上している。これに対し、クレジットの開発事業者や購入企業、一部の大手自然保護NGOが反対の意見を表明していることが、Climate Home Newsが入手した文書で明らかになった。

何が起きたのか

国連のパリ協定第6条4項に基づく仕組み(Article 6.4 mechanism、国や企業が気候目標の達成に使うクレジットを国連が管理して発行する制度)の下で、事務局が外部からの意見を募ったところ、30を超える団体が意見書を提出した。Climate Home Newsが精査したところ、複数の団体の文章が酷似し、一部は段落や意見書全体がそのまま使い回されていたことが分かった。批判する側は、この動きを「協調的なロビー活動」と呼んでいる。

中でも目立つのが、大量の自然由来クレジットを購入してきた米アップルの意見書だ。この文書は、企業の買い手とNGOでつくる連合体ビヨンド・アライアンス(Beyond Alliance)が出した意見書をわずかに書き換えたものだったが、ある段落でアップルの社名への差し替え忘れがあり、ビヨンド・アライアンスの名前がそのまま残っていた。ビヨンド・アライアンスは、加盟団体の意見を集めて最終文案を示し、使うかどうかは各団体の判断に委ねたと説明し、規則を弱める内容だとの見方を否定している。

Climate Home Newsが入手した文書には、政府担当者向けの説明に使われた資料も含まれていた。ビヨンド・アライアンスによれば、加盟団体は国連環境計画(UNEP)からも説明を受けたという。専門家3人とEUの外交官1人は、UNEPのこれまでの発言が、クレジット取引で利益を得る立場の意見におおむね沿ってきたと同メディアに語ったが、UNEPで緩和策を統括するガブリエル・ラバテ氏はこの指摘を否定している。

規則案を審議する技術パネルは、現地時間9月7日から11日までの5日間の日程で、ボンで会合を開いている。ここでの結論は、制度を監督する監督機関(Supervisory Body)に勧告として送られ、10月初めの会合で承認の可否が判断される見通しだ。

背景

森林の保全や再生などで温室効果ガスの排出を減らしたとされる分だけ発行されるカーボンクレジットは、蓄えた炭素が火災や干ばつ、伐採などで再び大気に放出されると、その分の削減効果が失われる。この危険はリバーサルリスク(reversal risk)と呼ばれる。備えとして事業者は、発行したクレジットの一部を売らずに取り置くバッファプール(buffer pool、保険のように積み立てる予備分)を設けるのが一般的な仕組みになっている。

問題は、この予備分をどれだけ積むべきかの計算方法が長年あいまいだったことだ。特に森林保全事業では、炭素が失われる危険を過小評価してきたとの指摘が専門家から出ている。7月、技術パネルは、独立した科学者グループの新しい研究に基づく地域ごとの危険度の値を使って予備分の量を決める新方式を提案した。これは、専門家の経験則や事業者自身のデータに頼りがちだった従来のボランタリー市場のやり方より厳密だとの評価がある。

カーボン・マーケット・ウォッチ(Carbon Market Watch、ブリュッセルに拠点を置く監視団体)のフェデリカ・ドッシ氏は「実証データに基づいて予備分に回すクレジットの数を算出する、新しい考え方をもたらすことになる」と述べた。新方式はまず、普及している一方で批判も多いクリーンクックストーブ(clean cookstove、薪や炭の消費を減らす調理用コンロ)向けの事業に適用され、その後、森林保全事業などに広げられる可能性がある。

日本にとっての意味

今回議論されているパリ協定第6条4項の仕組みは、日本が二国間で進める二国間クレジット制度(Joint Crediting Mechanism、JCM)とは別の枠組みとして運用されてきたとみられる。ただ、6条4項のもとで国連が定める基準は、クレジットの品質を測る事実上のものさしとして、ボランタリー市場や各国の制度にも影響を及ぼすとみられる。

今回の対立点は、森林や自然由来のクレジットに直結する、火災や干ばつによる炭素の消失リスクをどう見積もるかにある。日本企業が海外の森林保全事業などから調達するカーボンクレジットも、まさにこのリスクの見積もり方によって評価が左右される立場にあるとみられる。規則がまずクリーンクックストーブ事業に適用され、その後森林保全事業に広がれば、日本企業が使う自然由来クレジットの評価基準そのものが書き換わることになる。

監督機関が10月初めに下す判断は、規則がどこまで厳格になるかを左右する分岐点になる。業界とNGOの一部が結束して規則の緩和を求めている今回の経緯は、日本の企業や政策担当者にとって、国連の炭素市場の信頼性がどう保たれるかを占う試金石でもある。