米製紙業界、EU森林破壊防止規則の骨抜きへ激しいロビー活動
欧州連合(EU)が導入する森林破壊防止規則(EUDR、European Union Deforestation Regulation)をめぐり、米国の製紙・木材業界団体が多額の資金を投じて規制緩和を求めるロビー活動を展開していることが、Mongabayの報道で明らかになった。米政府の複数の省庁や連邦議員、駐EU大使までもがこの圧力に加わっているという。日本の製紙業界団体も、規制緩和を求める共同声明に名を連ねていた。
何が起きたのか
EUDRは、木材や紙、その他一定の産品をEU域内で販売する企業に対し、その産品が森林破壊や森林の劣化(森が消滅するのではなく質が損なわれること)に関与していないことを証明するよう義務付ける。デューデリジェンス(取引先や産地を事前に調べて確認する義務)とトレーサビリティ(産地までの追跡可能性)の確保が柱で、2026年12月に施行される予定だ。米国やカナダの業界団体は、森林破壊リスクの低い国について審査を簡略化する「ノーリスク」区分の新設を求めてきた。
米国の製紙・木材製品メーカーの業界団体、米国森林紙協会(American Forest & Paper Association、AF&PA)は、2023年以降ロビー活動に1100万ドル近くを投じ、今年(2026年)だけでも130万ドルを支出したという。プロクター・アンド・ギャンブルやインターナショナル・ペーパーなど大手企業を会員に持つこの団体のロビイストらは、連邦議会だけでなく米農務省、森林局、国務省、商務省、米通商代表部(USTR)とも協議を重ねてきた。これらの省庁の担当者はその後、欧州各国の首都を訪れ、規制の適用除外を求めて働きかけたとされる。
AF&PAの政治活動委員会(PAC、業界団体が資金をまとめて政治家に献金する仕組み)は、2025年以降27万2041.63ドルを議員らに献金している。この資金を受け取った議員の一人であるオースティン・スコット下院議員は昨年(2025年)、トランプ大統領に規則への介入を求めた際、米国の農家に何ができるかまで規則が指図していると訴えたとされ、トランプ氏は「早急に変えさせる」と応じたという。
アーカンソー州選出のブーズマン、コットン両上院議員も、2025年3月にEUの担当委員宛てに書簡を送り、規制を緩めなければ米国の林産業との貿易関係が損なわれかねないと警告した。同年末には、通商代表部のグリア代表に対し、規則が大幅に見直されるまで米EU間の貿易合意の履行を延期するよう求める書簡も送られている。米通商代表部は2025年の年次報告書で、EUDRを貿易上の懸念事項の一つに挙げた。
駐EU大使のアンドリュー・パズダー氏も規則を批判する立場を公にしており、EUDR担当委員と並んだ写真を交流サイトに投稿するなど、米国側の姿勢を発信してきた。欧州議会でEUDRの交渉を主導する議員の一人、デララ・ブルクハルト氏はMongabayの取材に対し「米国の駐EU大使や米政府当局者も、EUDRを骨抜きにしようとブリュッセルで活発に動いている」と証言した。カナダでも林産業団体や政府が同様の働きかけを続けており、カナダの駐EU大使は2022年の時点で、規制の施行延期とトレーサビリティ要件の緩和を求める書簡をEUに送っていた。
2026年に入り、AF&PAとカナダの林産業団体は、オーストラリアの林産業団体、ニュージーランドの林業者団体、そして日本の製紙業界団体(Japan Paper Association)とともに、森林破壊リスクの低い国への監督を軽減するよう求める共同声明を発表した。
背景
EUDRは、森林を完全に切り開く「破壊」だけでなく、質を落とす「劣化」も対象とする。米国やカナダの業界団体は、自国は森林破壊リスクが低いとして規制の簡略化を求めてきた。
AF&PAが投じた資金の規模が明らかになっているのは、米国の法律がロビー活動の支出や政治献金の開示を義務付けているためだ。企業や業界団体は献金を一つの政治活動委員会(PAC)に集約して議員に配分でき、その金額と受け取った議員名は公開情報として追跡できる。今回の報道も、こうした開示記録をもとにしている。
米国にとってEUは林産品の主要な輸出先であり、米農務省によれば2025年の対EU輸出額は8億7970万ドルに上る。トランプ政権下では、米EU間の貿易合意そのものを材料に規制緩和を迫る動きも出ており、通商政策と環境規制が絡み合う構図になっている。
日本にとっての意味
今回の報道で見過ごせないのは、日本の製紙業界団体が米国やカナダの業界団体と並んで、EUDRの監督緩和を求める共同声明に加わっていた事実だ。日本は圧力を受ける側であるだけでなく、規制緩和を求める側にも回っていたことになる。EUに紙製品や合板、家具などを輸出する日本企業も、EUDRの下でデューデリジェンスの対象となる可能性があり、規則がどこまで緩和されるかは、産地の位置情報の提出をはじめとする実務負担の大きさに直結する。
加えて、今回の一件は、米国政府が通商上の圧力を使ってEUの規制内容そのものを変えさせようとした事例として参考になる。米EU間の貿易合意の履行延期をちらつかせて規制の見直しを迫るという手法がとられたことは、今後の日米間や日EU間の通商交渉でも同様の圧力がかかりうることを示唆している。EUDRの最終的な内容がどう決着するかは、日本の輸出企業の実務にとってだけでなく、貿易ルールをめぐる大国間の力学を見る上でも、注視する価値がある。