見た目が医療機器に見えない介助椅子、米国の起業家が10年かけて開発
米国の起業家ジャネット・フェルドマン氏が、医療機器に見えない介助用リフトチェア「AWEchair」を開発した。高齢の両親のために使いやすい椅子を探した経験がきっかけで、開発には10年かかったという。価格は7995ドルから。
何が起きたのか
フェルドマン氏は、靴業界で20年以上働いたのち家業を離れ、新たに「Assistance With Elegance(AWE)」という会社を立ち上げた。きっかけは、高齢の両親が身体的な問題を抱えたときのことだった。座った状態から自力で立ち上がれる「リフトチェア」と呼ばれる椅子を探したが、市場にあるものはどれも医療機器という印象の強いデザインばかりで、納得できるものが見つからなかったという。
そこでフェルドマン氏は、自分が欲しいと思える椅子を自ら作ることを決意する。エンジニアや工業デザイナーだけでなく、老年学の専門家や整形外科医も開発チームに加え、機能性を後から付け足すのではなく、最初から設計に組み込む方針をとった。製造パートナーを探した末、最終的にドイツの工場が構想を理解し、何度も試作を重ねて形にしたという。
完成したAWEchairは、クラシックなクラブチェアの佇まいを保ちながら、中国で開発されたモーターやイタリア製のレザーなど各国の技術・素材を組み合わせている。特許を取得した収納式のフットレストは、椅子が通常の姿勢に戻ると機構のほとんどが外から見えなくなる。張地は米国ノースカロライナ州で仕上げられ、本革または合成皮革から選べる。カップホルダーや足を支える型など細部にまで工夫が凝らされている。開発を通じて取得した特許は合計8件だという。
背景
先進国では高齢化に伴い、自力での立ち座りが難しくなった人向けの「リフトチェア」の需要が高まっている。座面や背もたれに内蔵したモーターで体を持ち上げる仕組みの製品自体は以前から存在するが、こうした機器はどうしても操作パネルやレバー、無骨なフレームが目立ち、リビングに置くと医療施設のような雰囲気になりがちだったとみられる。
フェルドマン氏がこの分野に参入した背景には、靴づくりで培った素材選びや職人技への理解があったという。介護や福祉のための道具は、機能さえ満たせば見た目は二の次だという考え方が業界に根強く残っていた可能性がある。フェルドマン氏は「必要なのは、単に椅子から安全に立ち座りできるようにすることだけではない」と述べ、暮らしの中に誇りを持って置ける家具を目指したと説明している。
なお、フェルドマン氏の両親はAWEchairの完成を見届けることなく他界したが、開発の出発点は今も両親への思いにあるという。
日本にとっての意味
日本も世界有数のスピードで高齢化が進んでおり、立ち座りを助ける椅子やベッドといった福祉用具の需要は今後も増える見通しだ。介護保険制度のもとでレンタルできる福祉用具の中にもリフトチェアに近い製品が含まれるとみられるが、選択肢の多くは機能重視で、居間に置いたときの見た目まで配慮した商品はまだ限られているようだ。
AWEchairのように、開発の初期段階から医師や高齢者研究の専門家を交えつつ、素材や仕上げにも高級家具並みの手間をかけるという発想は、日本の福祉用具メーカーや家具メーカーにとっても参考になりうる。身内の介護をきっかけに事業を立ち上げたという経緯も、家族の在宅介護が一般的な日本の読者には身近に感じられるだろう。価格が7995ドルからと高額であることを踏まえれば、これは大量生産品というより、見た目にこだわりたい富裕層向けの選択肢を切り開いた事例と捉えるのが妥当だ。ただし、こうした発想がいずれ量産品にも波及し、介護用品全体の意匠に対する意識を変えていく可能性はある。