バイユー・タペストリー展、協賛者の肖像画公開 イスラエル軍との接点に関心
大英博物館で開催中の大型企画展「バイユー・タペストリー展」の会場に、展覧会の主要協賛者である実業家イゴール・トゥルチンスキー氏を描いた肖像画が展示されていることが分かった。同氏はこの展覧会に500万ポンドを協賛したとされる一方、自身が立ち上げた投資ファンドとイスラエル国防軍(IDF、イスラエルの軍組織)との接点が報じられ、関心を集めている。
何が起きたのか
肖像画は英国の画家ジョナサン・ヨー氏の作品で、展覧会の会期中は館内に展示されるという。ヨー氏は自身のSNSで、トゥルチンスキー氏の協賛を記念して制作を依頼されたことを「光栄」だと投稿し、同館の開発担当ディレクターであるシャーロット・アップルヤード氏も同じ投稿に「あなたは素晴らしい。とても感謝しています」とコメントを寄せた。
ただし、この肖像画がどのような経緯で発注され、制作費がいくらだったのかについて、大英博物館は取材に対し明らかにしなかった。報道時点で、協賛の一環として発注されたものではないとみられている。
トゥルチンスキー氏は2025年、イスラエルで新興のディープテック(深い技術的専門性に基づく先端技術分野)の企業に投資する新たな運用会社「ワールドクオンツ・ジェネシス」を立ち上げた。イスラエルのニュースメディアCTechによれば、このファンドは安価な無人機の群れに対抗する技術を開発するイスラエルの防衛関連新興企業、NavAiroに投資しているという。同氏はこのファンドの運営責任者として、IDFの元指揮官サール・ツール氏を起用したと伝えられている。
トゥルチンスキー氏は現地時間の2026年9月8日にロンドンで開かれた年次のアート・ビジネス・カンファレンスでアップルヤード氏と対談し、この展覧会を支援した理由について語った。タペストリーに描かれた人々の首が切り落とされる場面が印象に残ったとしたうえで、多数の人物や動物が登場するこの中世の作品を、自身は一種の「データセット」として捉えていると説明したという。
背景
バイユー・タペストリーは、11世紀に制作されたとされる刺繍布で、ノルマン人によるイングランド征服を描いた中世美術の代表作として知られる。今回の展覧会は英国で近年最も注目を集めた企画展の一つとされ、最初に販売された公開チケットは数時間で完売し、館に約250万ポンドの収入をもたらしたという。会期は現地の2027年7月11日までで、来場者数は最終的に約100万人に達すると見込まれている。
トゥルチンスキー氏は旧ソ連のベラルーシ生まれで、幼少期に米国に移住した。数理モデルを用いて売買判断を行う、クオンツと呼ばれる手法を使う投資会社ワールドクオンツの創業者兼最高経営責任者である。フォーブス誌によれば、同社の運用資産は170億ドル、同氏個人の資産は17億ドルとされる。また同氏は2025年の米大統領就任式の費用をまかなう就任委員会に100万ドルを寄付したことも明らかになっている。
この規模の展覧会を開くには多額の資金が必要で、美術館が個人や企業から主要な協賛を募ること自体は珍しくない。今回、肖像画の発注経緯や費用を館が明らかにしていない点は、透明性をめぐる論点の一つといえる。
日本にとっての意味
日本の大型美術展は、新聞社やテレビ局といった報道機関が主催・共催に名を連ね、複数の企業が協賛するかたちで資金を集めることが多いとされる。今回のように、特定の個人が数百万ポンド規模を単独で協賛し、その人物の肖像画が会場に飾られるという形は、日本の読者にはあまりなじみのない資金調達の仕組みといえる。
こうした個人協賛の仕組みでは、協賛者の事業や投資が展覧会の内容そのものとは無関係に見えても、後から問題視される可能性がある。今回のケースは、大型展の資金源や発注の経緯について美術館がどこまで説明責任を果たすべきかという、運営の透明性に関わる論点を示している。
また、バイユー・タペストリー展は今後日本からの旅行者にとっても関心の対象になりうる。会期は現地の2027年7月11日までで、最初のチケットが数時間で完売した実績を踏まえると、渡航を検討する読者はチケットの販売動向に早めに注意を払う必要があるだろう。