ジャワサイ、噴火乗り切るも生息地1カ所に集中の脆さ露呈
インドネシアの国立公園当局は、世界で唯一とされる野生のジャワサイの生息地が、近くで噴火した火山の影響をほとんど受けていないと明らかにした。ジャワサイは絶滅危惧種に指定されており、生息地がジャワ島の1カ所に限られていることが以前から懸念されてきた。今回の噴火は直接の被害を出さなかったものの、この種が抱える根本的な脆さを改めて浮き彫りにした。
何が起きたのか
ジャワ島とスマトラ島の間、スンダ海峡に浮かぶ活火山アナク・クラカタウは、現地時間の9月4日から噴火を続けている。火山灰は両島の一部に降り注ぎ、航空便の乱れや、一部の学校と漁業活動の停止を招いた。この火山は、世界で唯一の野生ジャワサイ(Rhinoceros sondaicus)の生息地であるウジュン・クロン国立公園から約50キロメートルの距離にある。
同公園のアルディ・アンドノ園長は現地時間9月7日、Mongabayへのメッセージで「ジャワサイは安全で、これまでと変わらない様子だ」と述べた。振動や噴火音による影響は最小限にとどまっているといい、レンジャーは引き続き警戒しているという。環境保護団体アウリガ・ヌサンタラの野生生物研究者リズキ・イス・ハルディアント氏も現地時間10日、噴火に関連してサイが死んだという報告は受けていないと語った。同氏は「ジャワサイにとって脅威となるのは、この地域で津波が起きた場合だ」と指摘している。
背景
ジャワサイはかつて南アジアから東南アジアにかけて広く分布していたが、狩猟と生息地の消失によって激減し、現在はウジュン・クロン国立公園のみに生き残っている。この個体群が失われれば、野生下からこの種が完全に姿を消すことになる。個体数について、国際自然保護連合(IUCN)は最少推定約50頭としている一方、インドネシア森林省は87頭から100頭という数字を示しており、両者には大きな開きがある。
この差が問題視されるようになったのは、2023年にアウリガ・ヌサンタラが行った調査がきっかけだ。同団体は、何年もカメラトラップに姿が写っておらず、後に死亡が確認された個体まで公式の頭数に含まれていた可能性を指摘した。2011年以降、政府の統計上は個体数が右肩上がりに増え続けてきたが、その集計方法が生存個体数を実態より多く見せている恐れがあるという。
生息地が低地の沿岸部にあることも、この種が津波に特に弱い一因となっている。2018年12月にウジュン・クロンを襲った津波では、サイ1頭が死亡した。生息地を分散させるべきだという声は、保護団体の間で以前から出ている。
有力候補とされたジャワ島南岸の保護区チクプフ(5000ヘクタール)は、軍の訓練場としても使われていることから2019年に危険と判断された。政府は既存の国立公園内での生息環境の拡大に方針を切り替えた。個体群内での移動も試みられているが、2025年11月には移送先で死んだオスのサイ「ムソファ」の解剖から、重い寄生虫感染と慢性的な健康問題が見つかっており、脆弱な個体を動かすこと自体のリスクも指摘されている。
日本にとっての意味
「生息地が1カ所しかない」という危うさは、日本がトキで通ってきた道でもある。国内の野生個体が絶滅したあと、中国から譲り受けた個体をもとに人工繁殖と放鳥を重ねてきたが、個体群は長く佐渡に集中していた。環境省はこの偏りを危険とみて、感染症や環境の変動に備えるために多摩動物公園、いしかわ動物園、長岡市、出雲市などの施設へ分散飼育を進めている。さらに本州で定着させるため放鳥候補地を公募し、本州で最初の放鳥地は石川県羽咋市に決まった。
ウジュン・クロンのジャワサイが置かれた状況は、佐渡のトキと同じ構図に見える。ただし決定的な違いが一つある。トキには飼育下で殖やすという保険があったが、ジャワサイにはそれがない。世界の動物園にジャワサイは1頭もおらず、最後の飼育個体は1907年に死んだきりだ。これまでに少なくとも22頭が飼育された記録があるものの、飼育下で子が生まれたことは一度もない。日本の動物園で会えるサイはシロサイ、クロサイ、インドサイで、ジャワサイは含まれない。
つまりこの種にとって、生息地を分けることは選べる手段の一つではなく、ほぼ唯一の手段になる。にもかかわらず移転先の候補は軍の訓練場との重複で断念され、個体の移動そのものにも死亡例が出ている。飼育下という逃げ道を持たない種を守るのがどれだけ難しいかを、アナク・クラカタウの噴火は思い出させた。