サウジ東西パイプラインにドローン攻撃、発射元はイラク領内
サウジアラビアの原油輸送を担う東西パイプラインが、隣国イラクの領内から発射されたドローンによる攻撃を受けた。サウジ政府は攻撃を非難しつつ、イラク首相の要請を受けて当面は報復を控えると発表した。イラク側は攻撃元とされる州の軍司令官を更迭するなど、事態収拾に動いている。
何が起きたのか
サウジアラビア外務省は現地時間9月11日、東西パイプラインへのドローン攻撃について、発射元はイラク領内だったと発表した。攻撃により負傷者と損害が出たという。同省の声明によると、サウジはイラク首相の要請を受け、この段階では報復を控えたとしている。これは、イラク政府に、自国領内から発射される対サウジ攻撃を防ぐ措置を取る機会を与えるためだったという。
これに先立ちサウジエネルギー省は同日、前日の現地時間9月10日にパイプラインが複数回の攻撃を受けたため、予防措置として稼働を停止したと発表した。攻撃はサウジ中部のリヤド州と西部のメディナ州で発生し、複数の負傷者が出たとしている。緊急対応チームと技術チームが直ちに出動し、関係当局と連携してパイプラインの安全確認にあたったという。
イラク側も同日夕方、軍最高司令官報道官のサバーハ・アル・ヌウマーン氏が声明を発表し、サウジへの攻撃を非難した。声明では「イラクの領土と領空はいかなる国への攻撃の発射拠点としても使用されない」と強調し、同国軍の最高司令官を兼ねるアリー・アル・ザイディ首相が、攻撃の経緯と責任者について緊急調査を命じたとした。現地時間9月12日未明の続報では、攻撃の発射元がイラク南東部のマイサーン州であったことが確認されたとし、ザイディ氏が同州の作戦司令部に対する調査委員会の設置と、州の軍司令官の解任を命じたことが明らかにされた。
背景
東西パイプラインは、サウジアラビア東部の油田地帯から紅海に面した港湾都市ヤンブー(Yanbu)まで原油を運ぶ設備で、湾岸から原油を運び出す際の要衝であるホルムズ海峡を経由しない代替輸送路として位置づけられている。サウジはこの迂回路の整備に長年投資してきた。ホルムズ海峡は幅が狭く、周辺国の緊張が高まるたびに封鎖の懸念が取り沙汰されてきたが、2026年3月以降は実際に閉鎖された状態が続いている。東西パイプラインは、そのためサウジが原油を輸出するうえで大きく依存する経路となっていた。
今回の事案で注目すべきは、攻撃そのものよりも「発射元がイラク領内だった」という点である。イラク国内には、政府の指揮系統に完全には収まらない武装勢力が存在するとされ、こうした勢力が国境を越えて周辺国を標的にする事例はこれまでも報告されてきた。マイサーン州はイランと国境を接する地域である。
サウジが即座に報復せず、イラク首相の要請に応じて時間的猶予を与えたのは、イラク政府に自国領内の統制を示させるための外交的な配慮だったとみられる。イラクが州の軍司令官を更迭したのは、その猶予に対して具体的な対応を示した形と受け止められる。
両国は声明で、友好関係の維持と再発防止への協力を強調しており、少なくとも表向きは緊張のエスカレーションを避ける姿勢を見せている。
日本にとっての意味
日本は輸入する原油の大半を中東に依存しており、その多くがホルムズ海峡を通って運ばれるとされる。東西パイプラインは、この海峡が使えない場合の代替輸送路として、日本を含む消費国のエネルギー安全保障上の「保険」の役割を担ってきた。今回の攻撃で同パイプラインは予防措置として一時停止された。
それでも、この事案が示すのは「迂回路も無傷ではない」という現実である。ヤンブーは紅海に面しており、この海域でも近年、船舶への攻撃などで航行リスクが指摘されてきた。原油調達の代替手段として語られてきたルートの脆弱性が具体的な形で示されたことは、日本のエネルギー政策を考えるうえでも留意すべき材料といえる。