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ナチス略奪の肖像画、アルゼンチン裁判所が返還命令 80年ぶり所在判明

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アルゼンチンの裁判所は現地時間9月4日、ナチスドイツによって1945年にオランダで盗まれ、約80年間行方不明だった18世紀の肖像画について、正当な相続人への返還を命じる決定を下した。絵は2025年8月、マル・デル・プラタにある物件のオンライン広告の写真に写り込んでいるのが見つかり、その後の家宅捜索を経て回収された。絵があったのは、ナチス高官の娘の自宅だった。

何が起きたのか

イタリア・バロック期の画家ジャコモ・チェルーティ(Giacomo Ceruti)の作とみられる「婦人の肖像(Portrait of a Lady)」は、1945年にアムステルダムのユダヤ人が所有する画廊から盗まれて以来、所在が分からなくなっていた。裁判所の鑑定が行われるまで、この絵は別のイタリア人画家ジュゼッペ・ギスランディ(Giuseppe Ghislandi)の作とされてきた。

2025年8月、オランダの新聞アルヘメーン・ダフブラット(Algemeen Dagblad)の記者が、アルゼンチンの保養地マル・デル・プラタにある住宅の不動産広告に掲載された室内写真の中に、この絵を見つけた。写真では緑色のソファの上に絵が掛けられていた。記者のピーター・スハウテン(Peter Schouten)はまさかと思ったと振り返り、「オランダで80年間、捜索されてきた絵だった」と話している。

住宅の所有者はパトリシア・カトギーン(Patricia Kadgien)。父フリードリヒ・カトギーン(Friedrich Kadgien)は、ナチス占領下の国々でユダヤ人所有の美術品の略奪を統括した高官だった。報道から数日後、アルゼンチン警察が邸宅を捜索したが、絵はすでに運び出されており、広告からも写真が削除された後だった。警察は携帯電話や無登録の銃器、1940年代の書類などを押収し、その後、絵画そのものも回収した。

カトギーン氏と夫のフアン・カルロス・コルテゴソ(Juan Carlos Cortegoso)は隠匿の疑いで起訴されていた。9月4日、裁判所で開かれた審理で、2人に対する刑事手続きは、作品を相続人に返還し、地元の病院に約3,200ドルを寄付することを条件に停止された。相続人側の弁護士フアン・イグナシオ・パスクアル(Juan Ignacio Pascual)は美術専門紙アート・ニューズペーパー(The Art Newspaper)に対し、「私たちの知る限り、アルゼンチンの司法がナチスに略奪された絵画を発見し返還させたのはこれが初めてだ」と述べている。

背景

第二次世界大戦中、ナチスドイツは占領下のヨーロッパ各地でユダヤ人が所有する美術品を組織的に略奪した。オランダのジャック・グーツティッケル(Jacques Goudstikker)は、1940年のドイツ軍侵攻後に国外へ逃れたが、その際に1,100点を超える所蔵品がナチスの手に渡ったとされる。戦後、これまでに200点以上がグーツティッケル家に返還されているものの、残りの多くは今も世界各地に散らばっているとみられる。

アルゼンチンは戦後、多くのナチス党員やその関係者が身を隠し、略奪した資産を持ち込んだ国としても知られる。フリードリヒ・カトギーンもその一人だったとみられる。

ナチスに略奪された美術品の返還は、今も世界的な課題となっている。フランスのオルセー美術館では、略奪された美術品225点を順に公開し、正当な所有者との照合を進める常設展が新たに始まっている。

日本にとっての意味

日本の美術館や収集家は、戦時中に欧州から流出した美術品が売買される国際市場で作品を買い続けている。海外の主要美術館では、購入や収蔵の際に作品の来歴(provenance、所有者の変遷の記録)を確認する調査が標準的な実務になりつつある。今回のように、長年行方不明だった絵画が偶然にも不動産広告の写真から見つかった事例は、来歴の分からない作品が今もどこかに眠っている可能性をうかがわせる。

一方、日本には、戦時に流出した、出自の分からない美術品を専門に扱う返還制度は整っていないとされる。国際市場を通じて日本の美術館や収集家の元に、来歴の確認が不十分な作品が渡っている可能性は否定できない。今回の判断は、収蔵品の来歴を継続的に見直す姿勢が、日本の美術関係者にも求められていることを示している。