貿易に伴う排出、世界の2割 輸入分は制度の外に
新しいトラッカー(追跡ツール)と、そのデータをもとに欧州気候財団(European Climate Foundation)と気候コンサルティング会社Matièreがまとめた分析によると、世界の温室効果ガス排出のおよそ2割が、国境を越えて取引される財やサービスに紐づいているという。だがパリ協定のもとでは、各国は自国の領土内で発生した排出だけを数え、削減の対象とする仕組みになっている。輸入した製品に伴う排出は、消費する側の国の排出目録には表れず、事実上見過ごされてきたと研究者たちは指摘する。
何が起きたのか
今回の分析では、欧州連合(EU)を例に、国内で発生する排出は2015年以降減少してきた一方、輸入に伴う排出はほとんど変わっていないことが示された。オーストリアやスウェーデンでは、輸入に紐づく排出量が、その国全体の年間カーボンフットプリントに匹敵する規模になっているという。
製造業大国である中国は、このトラッカーで世界最大の排出国とされる一方、その排出の相当部分は輸出され海外で消費される製品に紐づいており、その規模はブラジル一国の年間カーボンフットプリントを上回るとされる。輸出先として多いのはロシア、ブラジル、米国、EUで、発電関連の部品や銅・鉛などの基礎金属、黒鉛やリンといった非金属鉱物が中心だ。
一方で中国は、世界最大の排出「輸入」国でもある。米国、EU、日本、インドなどから農産物や化石燃料、鉱物を輸入しており、これに伴う排出は米国とほぼ並び、両国とも約16億トン(CO2換算)にのぼる。
こうした貿易に紐づく排出の扱いは、中国・インド・南アフリカなど新興国主導の働きかけを受けて、国連気候交渉での優先度が高まりつつある。2026年6月、ドイツのボンで開かれた中間会合では、貿易と気候変動をめぐる初めての対話が実現した。しかし、2026年11月に開かれるCOP31(トルコ・アンタルヤ)では、ブラジル主導のIntegrated Forum on Climate Change and Trade(気候変動と貿易に関する統合フォーラム)のような自主的な取り組みは続く見通しだ。ただ、この論点はトルコが示す行動アジェンダには含まれておらず、正式な交渉の予定も組まれていないという。
背景
パリ協定の排出会計は「生産地主義」とでも呼べる考え方に立っている。ある国で作られた製品がどこで消費されようと、その排出は生産国の目録に計上される。この方式には、実際に排出を減らす責任の所在をはっきりさせやすいという利点がある一方、消費国が輸入という形で他国の排出に依存していても、その事実が統計上見えにくくなるという欠点がある。
EUの元首席気候交渉官ヤコブ・ワークスマン氏は、トラッカーの公開に合わせて開かれた説明会で「まず、取引される製品に含まれる炭素の量を把握する必要があるという認識を、世界の多くの国・地域が広く共有することから始まる。そのうえで、その炭素をどう測るかについて、公正で効果的、透明性があり、比較的実行しやすい方法を合意しなければならない」と述べた。輸入国側が自国の消費に伴う排出に責任を持つという発想自体は以前からあるが、測り方や責任の分担について国際的な合意はまだできていない。
欧州気候財団の産業政策・貿易ディレクター、リチャード・バロン氏は、中国製のクリーンエネルギー関連製品が世界の排出削減に欠かせない存在になっていると指摘する。同氏によれば、中国と欧州の間で排出量の測り方をすり合わせる仕組みができれば、それが他の国々との議論の土台にもなり得るという。分析では、EUと中国が製品に関する気候要件をそろえた場合、世界の排出量のおよそ7%に相当する貿易の流れに影響が及ぶ可能性があるとされている。
こうした排出をどう扱うかをめぐる具体策の一つが、EUの炭素国境調整措置(CBAM、排出の多い輸入品に対して負担を求める制度)だ。欧州環境政策研究所(Institute for European Environmental Policy)のアントワーヌ・オジェ氏は、欧州における輸入排出のかなりの部分は、セメントなどCBAMの対象業種によってすでにカバーされていると述べている。
日本にとっての意味
パリ協定の仕組みが領土内の排出だけを数える以上、日本の温室効果ガス削減目標(NDC)や排出目録にも、輸入した製品に伴う排出は表れていないとみられる。ただし今回の分析では日本固有の数値は示されておらず、具体的な規模を断定できない。
今回の分析で日本の名が挙がるのは、中国が排出を「輸入」する相手国の一つとしてだ。単純な「輸入国」という構図だけでは捉えきれない立場にあることがわかる。
EUのCBAMのような制度が広がれば、日本から欧州に輸出する鉄鋼やセメントなど排出の多い品目が、将来的に何らかの負担を課される可能性は排除できない。また、貿易に紐づく排出の会計ルールが国際的に整えば、日本国内で使われる輸入品の価格や、企業のサプライチェーン管理のあり方にも影響が及びうる。ただし制度の詳細や導入時期は明らかになっておらず、今回の分析はあくまで「輸入排出という論点が国連交渉の場でまだ正式な扱いを得ていない」という現状を示すものである点には注意したい。