世界最大のクルーズターミナル、マイアミで竣工 3隻同時発着に対応
米マイアミの設計事務所アークテクトニカが、規模として世界最大のクルーズターミナルをマイアミ港に完成させた。MSCクルーズターミナルは船3隻を同時に受け入れられる細長い建物で、延床4万5700平方メートル、1日あたり3万6000人の乗客をさばく。
何が起きたのか
建物はドッジ島の東端に沿って伸びる。この島はマイアミビーチとダウンタウン・マイアミのあいだに斜めに横たわり、マイアミの多くのクルーズ会社が使うターミナルが帯状に連なるマイアミ港を抱えている。
細長い形は西端で立ち上がって大きなロビーを収め、中ほど寄りに鏡面の頂部がそびえてVIPラウンジが入る。そこから建物は細い尾のように引き伸ばされ、乗下船のゲートを収めている。
この線的な形は、乗客と荷物を滞りなく流す必要から導かれたと設計チームは説明する。「乗船と下船は垂直方向に分けて組まれていて、両方の流れが重なりや遅れを最小限に抑えたまま同時に進む」という。「この考え方が建物の動的で線的な形に表れている。乗客と船の向きと動きを映したものだ」
最大の特徴は収容力にある。港に1日何百隻が出入りしようと、ターミナル1つが同時に扱える巨大船は1隻というのが普通だ。ここでは実物大の船3隻を縦に並べて同時に着けられる。乗客用に2400台分の立体駐車場も併設された。
背景
内部は最も高いところで4階建てになり、大きく開いた空間に木の壁、テラゾーの床、波打つ青いカーペットが広がる。ゲートと座席のほか、海中の光景を映す巨大な画面が置かれ、壁面には公共アートが飾られている。保安の強化と移動の迅速化を狙って、乗客の生体認証による検査も導入された。
環境面ではLEEDゴールドの認証取得を目指しており、将来のLNG船に電力を供給できる設備も備える。LNG船は軽油ではなく液化天然ガスを燃料とする船だ。着工は2022年で、正式な開業は2025年4月だった。
マイアミ港には、同じアークテクトニカが設計してヴァージン・ヴォヤージュ向けに2022年に完成させたターミナルもある。「港で最近完成したターミナルの顔ぶれに加わり、『世界のクルーズの都』としての建築的な個性をさらに形づくる」と設計チームは述べている。このターミナルが受け入れるのはMSCクルーズとエクスプローラ・ジャーニーズの船で、マイアミ周辺を訪れる乗客の目的地としても、カリブ海へ向かう航海の起点としても使われる。
日本にとっての意味
日本のクルーズ需要は、数のうえでは戻ってきている。国土交通省の速報値によれば、2025年にクルーズ船で入国した外国人旅客は前年の約1.2倍の176万7000人、船の寄港回数は3117回に達した。寄港回数はコロナ前の最多だった2018年の2930回を超えた。一方で旅客数は2017年のピークのおよそ7割にとどまる。
ただし日本の港とマイアミでは、建物に求められるものが根本的に違う。マイアミは航海が始まり終わる母港で、だからこそ3万6000人分の搭乗手続きと2400台分の駐車場が要る。クルーズの間じゅう自家用車を預ける客がいるからだ。対して日本の港の多くは途中で立ち寄る寄港地で、乗客は日帰りで街へ出て船に戻る。必要なのは出入国の審査と送迎の動線であって、母港のような巨大な処理設備ではない。
その日本で新しいクルーズターミナルの建設を動かしたのは、収容力ではなく地形と構造の制約だった。東京港の玄関だった晴海客船ターミナルは、手前に架かるレインボーブリッジの桁下が52メートルしかなく、大型のクルーズ船が物理的にくぐれなかった。その橋の外側、船が橋をくぐらずに着けられる位置に人工地盤を築いて建てられたのが、2020年9月に開業した東京国際クルーズターミナルだ。
同じクルーズターミナルという建物でも、マイアミでは何隻を同時にさばけるかが設計を決め、東京では橋の高さが設計を決めた。寄港回数がコロナ前の最多を超えたいま、日本の港が母港としての役割をどこまで取りにいくのかは、次の建物の形を変える問いになる。