コソボ元大統領サチ被告、戦争犯罪で禁錮25年 特別法廷が判決
コソボの元大統領ハシム・サチ被告(Hashim Thaci、58歳)に対し、日本時間の9月16日、コソボ特別法廷(Kosovo Specialist Chambers)は禁錮25年の判決を言い渡した。1990年代、コソボ解放軍(KLA)の最高指揮官だった当時に問われた殺人、拷問、不法拘束などの罪が対象となる。この法廷はオランダ・ハーグに置かれているが、国際刑事裁判所(ICC)とは別の仕組みである。
何が起きたのか
サチ被告が問われたのは、コソボがセルビアからの分離を目指していた1990年代、アルバニア系住民の武装組織であるコソボ解放軍(KLA)で最高指揮官を務めていた時期の行為である。法廷は、殺人、拷問、不法拘束などの罪について有罪と認定した。
同じ裁判では、カドリ・ヴェセリ被告、レジェプ・セリミ被告、ヤクプ・クラスニチ被告の計3人も起訴されており、検察側は被告らに最大45年の禁錮を求刑していた。4人はいずれも戦争犯罪および人道に対する罪について無罪を主張していた。
背景
サチ被告は、1990年代のコソボ紛争でセルビア治安部隊と対峙したコソボ解放軍(KLA)の指導者の一人だった。紛争後、コソボはセルビアからの独立を宣言し、サチ氏は独立後のコソボで政権の要職を務めた。国内では独立を主導した人物として評価される一方、KLAが紛争中や紛争後に敵対勢力の捕虜や少数派住民に対して不法な拘束や虐待を行ったとの指摘が、国際社会から続いてきた。
こうした疑惑を専門に扱うために、EUの支援を受けて設けられたのがコソボ特別法廷(Kosovo Specialist Chambers)である。審理はコソボ国内ではなく、オランダ・ハーグで行われている。現地で審理を行うと証人への圧力や報復の懸念が拭えないためとされる。
この法廷は、混同されがちな国際刑事裁判所(ICC)とは別の組織である。ICCは加盟国が拠出して設立された常設の国際機関で、世界各地の事案を管轄する。
これに対しコソボ特別法廷は、コソボという一つの地域の紛争に限定して設けられた、いわゆるハイブリッド法廷(hybrid tribunal)とされる仕組みである。手続きにはコソボの法制度と国際法の双方が組み込まれているとされ、旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所(ICTY)など、過去にバルカン半島の紛争を扱ってきた同様の枠組みの流れをくむものとみられる。
日本にとっての意味
コソボは日本の外交報道でほとんど取り上げられない地域であり、元大統領の有罪判決という重い出来事も、通信社の短信で終わってしまいがちである。しかし今回の一件は、1990年代の紛争で指導的立場にあった人物が、政治家としての実績とは別に、戦時の行為について何十年も後に法的責任を問われるという事例として記録に値する。
日本ではニュースで「国際法廷」という言葉が出ると、ウクライナ情勢やパレスチナ情勢との関連でしばしば話題になる国際刑事裁判所(ICC)がまず思い浮かびやすい。日本はこのICCの加盟国でもある。しかし今回のコソボ特別法廷のように、特定の紛争を対象に当事国と国際社会が個別に設ける仕組みも存在する。両者の違いを押さえておくと、今後別の地域で同種の法廷設立が議論された際に、報道の位置づけを理解しやすくなる。
コソボ特別法廷のような枠組みは、紛争終結後に独立国家としての体制が固まっても、当時の指導者の行為が法的に問われ続ける可能性を示している。国家の独立や指導者としての政治的評価と、紛争下の個別の行為に対する法的責任の追及とは、別の物差しで測られうる。この点は、他の地域の紛争を考える際にも参考になる。